身体に働きかけるシリーズ8回目。
「回復期後期」や「維持期」に対して行われる作業療法例を紹介しています。
第1回の記事 精神科で身体介入をする目的とタイミングとは?
第2回の記事 精神科で身体リハを行う際の注意点とは?
第3回の記事 記憶に残るリハビリにする方法
プログラム紹介編
身体に働きかける作業療法のヒント(1)「身体感覚の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(2)「散歩の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(3)「アロマの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(4)「ストレッチの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(5)「合唱の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(6)「美容クラブの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(7)「農耕作業の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(8)「朗読会の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(9)「調理実習の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(10)「外来・デイケアの最適化」
今回は「朗読会」です。
音読会でも、読書会でも、勉強会でもなく「朗読会」
なぜ、朗読会なのかを紹介します。
■回復期後期の目的(おさらい2回目^^)
前回、前々回もお話ししましたが、大切な事なので繰り返します。
回復期後期では、現実感が戻ってきた時期です。
心身の基本的な機能が回復してきたら、社会に戻る準備を始めます。
前期までは「準備の準備」でしたが、いよいよ「準備」が始まります。
自分に合った生活をする為に必要な技能の習得とヘルプが出せる環境づくりをしながら、退院と社会生活に向けて準備することが目的となります。
ですので、身体に働きかける作業療法として行うポイントは3つ。
- 楽しみながら生活体力をつける。
- 健康の管理が行える。
- 安定した生活のリズムを作れる。
となります。
■維持期の目的
今回から維持期が含まれます。
維持期では、療養病棟で医療的支援を受けながら生活される方と、地域のなかで生活しながら社会参加する方に分かれます。
作業療法の目的は、
- 再燃・再発の予防
- 生活の質の維持・向上
- 社会参加の援助
となり、
その目的に向かって身体に働きかけるには、
- 楽しみながら生活体力を維持する。
- 健康の自己管理ができる。
ことを目指します。
今回は、病院、施設内維持の方向けに話を進めます。
■なぜ朗読会なのか?
なぜ朗読会なのか……真っ先に話しておかなければならない事があります。
それは僕の失敗談。
実は、最初にやったのが「音読会」
看護部長によって場が作られており、「自分の病気について学ぶ」をテーマに患者さんがテキストを読むものでした。
大失敗です。まず「個人の能力が違う」ことで、漢字が読めない、音読で声にならない、馬鹿にして居眠り……など混沌としてました。
看護部長は「なんで音読しないの!」とおかんむり。思い通りにいかず、皆唖然でした。
次に「読書会」
どうあっても自分の病気について勉強させたかったのかテキストはそのままに黙って読む「読書会」に。
病気の影響により、適切なタイミングで適切な学習を積み重ねていない面々には、文字が右から左に流れていくだけ。
色々な意味で静かな時間でした。
そして「勉強会」
結局、それぞれのレベルに合わせてグループを作らなければならない事に気づき、「勉強会」が始まりました。
それ自体は良かったんです。何せ、2歳~80歳の方まで同じ病棟で生活するところでしたから。
親御さんが共同生活する親グループ、小・中学生の集まる学校のお勉強グループ、高校生は独自に受験勉強、成人は自分の病気を勉強するグループとなりました。
ようやく作業療法から一度切り離して運用される事に。
改めて勉強から切り離して「朗読」に注目して活動をすることができるようになりました。
■朗読会を使う理由
身体に働きかける作業療法として「朗読会」を使う理由、何だと思いますか?
「社会参加の援助」と「楽しみながら生活体力を維持する」ことですね。
言い換えれば「身体活動を通じて人と交流する練習をする」ことです。
そこに勉強の要素は必要なし!
なんでもかんでも混ぜてやっては闇鍋状態。
「身体を動かす」、「人と交流する」に集中できるよう、場を整えましょう。
■朗読でどんな変化が起きるのか?
「身体を動かす」、「人と交流する」だけではちょっと分かりませんよね。
では、ここで必要とされる身体の動きは何でしょう?
姿勢、呼吸、発語、表情、身振り手振り、などなど。
次に、人と交流する時に必要なことは?
場の空気を読む、相手の様子を伺う、身体に反映させる、自己表現する、などなど。
そう「必要とされるもの=練習により変化するもの」です。
■具体的に何をする?
グループメンバーの層が様々で混沌としそうな時、
他の療法士がやっていてこれはいいな!と思ったものがあります。
それは「カルタ」です。
「え?朗読じゃないの?」ですって?
朗読が必要じゃないですか。読み手になったら。
「カルタ」はウォーミングアップで有用とされています。
誰もが知っている「いろはかるた」が一般的でいいですね。
知っているものを人前で読むので、いきなり朗読するよりも緊張感が少なくなります。
もちろん本番前の緊張感が和らぐのが一番です。
(先の看護部長は「◯◯病カルタを作って勉強させなさい!」って言い出しましたが、ステイしてもらいました。グループが違うんだよ……)
■本番の朗読は何を?
基本方針は「楽しんでやる」なので、関心が共通するものを選びます。
そういった意味では「自分の病気の勉強」と舵をきりたくなるのもわかりますけどね。慌てない慌てない。
民話、童話、昔話などが導入としてお互いにやりやすいです。
ニュースやテレビで話題の人のエッセイなどが出ていたらそれもよし。
新聞をよく読む人たちが多いなら、天声人語を拡大コピーしたものでやることもありました。
■朗読で身体に働きかける
内容が決まったら、身体に働きかける目的を共有。
- 姿勢が悪いと声の大きさに違いがあるのか?
- 無表情と表情豊かだと読みやすさに違いはあるのか?
など、ただ読むだけではなく、自分の身体に起きている変化を確認しながら読む、を試していきます。
■朗読でひとと交流する
- 身体に起きている変化を共有する。
- 読んだ内容について感想をいう。
- あなたならどうする?
など、読んだ内容を中心に、参加者同士で話し合う時間を作ります。
はじめのうちはなかなか言葉にならないでしょう。
療法士であるあなたがリーダーとして場の空気を作ります。
最初に戯けて見せたり、大失敗をして笑われるなどをしてみましょう。
■応用する
今回はちょっとした応用の話を。
毎回同じことばかりでは飽きてきますので、時には少しだけハードルを上げてみます。
民話や昔話、絵本を題材に朗読しているなら……図書館で紙芝居を借りてきましょう。
木工グループ、手工芸グループに手伝ってもらって紙芝居をつくるのもいいです。
ただ朗読するより、身振り手振り、感情豊かな読み方、聞き手の様子を見ながら口調を変える、など楽しみながら難易度を上げていくことができるでしょう。
更に難易度を上げるなら、「いい場面の寸劇」はいかが?
金色夜叉や世は情け浮名の横櫛(お富さん)の名場面は患者さんも学生さんも入り乱れてやると結構面白い事になります。
■まとめ
朗読は変化のバリエーションがつけやすく、身体の状態を確認しながら、他者との関係性に気を配る練習ができる題材です。
まだやったことがない!という方は、是非お試しあれ。
具体的な質問やご相談、こんな記事をお願い!
という声がございましたらいただければ、リハビリカレッジの公式LINEとお友達になって、トークでコメントをくださいね^^
本日は、最後まで読んでいただきありがとうございました。
身体に働きかける集団セッションをしたい方
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骨盤帯、体幹Back(脊柱・胸郭)、体幹Front(腹部軟部組織)、上肢、下肢、それぞれの働きかけ方を紹介しています。
参考文献
- 作業療法マニュアル31精神障害:身体に働きかける作業療法アプローチ
- 作業療法学全書2基礎作業学
- ひとと集団・場【新版】治療や援助、支援における場と集団のもちい方
- 天声人語