身体感覚に働きかけるプログラムの解説シリーズも増えてきましたね。
参考になってますでしょうか?
前回までの内容はこちらの通り。
第1回の記事 精神科で身体介入をする目的とタイミングとは?
第2回の記事 精神科で身体リハを行う際の注意点とは?
第3回の記事 記憶に残るリハビリにする方法
プログラム紹介編
身体に働きかける作業療法のヒント(1)「身体感覚の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(2)「散歩の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(3)「アロマの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(4)「ストレッチの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(5)「合唱の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(6)「美容クラブの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(7)「農耕作業の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(8)「朗読会の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(9)「調理実習の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(10)「外来・デイケアの最適化」
今回は、予告通り「アロマテラピー」です。
Table of Contents
作業療法のなかでアロマは使えるの?
いきなり核心部分にツッコんでいきます。
そもそも作業療法の場面で使っていいのか?
法律上はこうです。
身体又は精神に障害のある者に対し、主として その応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。
つまり、
- 目的を持った「作業」が作業療法士によって提供されるならOK。
- 「作業」とは「対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す」(OT協会作業療法の定義より)
- 「activity」は「作業」の手段であり道具。
以上のことより、目的によっては使用可能ということです。
今回は「身体感覚レベルの現実感を回復する」ことが目的です。
「香り」により「嗅覚」を刺激し、大脳辺縁系(記憶と情動)に働きかけることになります。
いわゆるアロマテラピーとは?
現代では代替補完療法(CAM)の範疇に入るものとして知られています。
歴史は古く、数千年前から芳香植物を利用した治療法として行われており、近代ではフランスの科学者Rene-Maurice Gattefosseが実験中の重度の熱傷をラベンダーにより治癒したことから関心を持ち、1930年代に新分野として「アロマセラピー」という用語を使ったのが始まりと言われています。
テラピー?セラピー?
色々言い方がありますよね。
なぜ冒頭でテラピーと使ったのかと言えば、「作業療法マニュアル31精神障害:身体に働きかける作業療法アプローチ」にてその記載があったからです。
……どっちもtherapyだし、セラピーにしときましょうか。MARTでも認定セラピストですし^^
(フランスでの「療法」としての起こりがテラピーであり、イギリスに渡ってからの「癒し」としての表現がセラピーである、という歴史はあります)
ということで、ここでは以後セラピーにします。
アロマって美容のイメージで医療ではないのでは?
ああ、それもよく聞く質問ですよね。
フランスやベルギーでは医療行為として認められています。
感染症や更年期障害、不眠症など多くの症例に有効であると報告されています。
一方、イギリスでは美容、ストレス解消、リラックスの目的で使われてきました。
日本はイギリスからアロマセラピーが輸入されてきた経緯もあり、美容のイメージが強いようです。
ですが、最近では医療分野での臨床報告が増えてきており、心身相関の代表的治療とも言われています。
それらを踏まえ、作業療法で行うには?
さて、アロマセラピーをなんとなく知ってて、使いたいな~と思いつつも、作業療法の現場で実践に至らなかったのではありませんか?
その理由は「具体的にどう使ったらいいのか?」ですよね。
もちろん「危険性はないのか?」も大事です。
精神科の現場では、基本的に患者さんに触れませんよね。
その時「侵襲性があるから」と皆さんおっしゃいます。
確かに触れない事で心理的侵襲性は抑えられますが、そもそもの侵襲性の意味は「生体に物理的、科学的、心理的刺激を加えること」ですよね。
「リスク管理入門講座」で紹介した通りです。
今回のアロマセラピーは「科学的な刺激」なので、注意が必要です。
本来なら「MART」で化学式含めしっかり学んだうえで使うのがいいんですけどね。
まずは注意点を確認!
最初に言っておきますが、注意点を見て「やーめた!」は無しですよ!
思考停止せず、どうしたらあの方に使えるかな?と前向きにとらえてくださいね。
と言う事で、注意点です。
- 精油を直接肌につけない。
- 内服はしない。
- 目に入らないよう注意。
- 保管・管理方法に注意。
- 合成オイルと精油を混ぜない。
- 信頼できる高品質のものを使う。
- 妊婦には使用できないものもある(MART認定セラピストに確認しよう)
- その他たくさん……
と、少なくともこれらは守ってください。
市販の雑貨扱いの物でも「化学物質」です。
クライエントさんが服用しているお薬と競合する場合もあります。
精神科の患者さんで特に注意が必要なのは、肌への刺激です。
薬物と室内生活の影響で皮膚が非常に弱いです。
柑橘系のものには光毒性、光感作があります。日光に過敏になるんですね。
室内でも日焼けしやすい方、刺激を感じる方には芳香浴がいいでしょうね。
具体的な方法は?
使いづらい? やっぱりやーめた?
いやいや、ちゃんと方法はあります。
今回そもそも「身体に働きかける作業療法」として、「身体感覚レベルの現実感を回復する」ことが目的でしたね。
「身体感覚レベルの現実感を回復する」ことを目的に芳香療法を使うなら……?
匂いを嗅げばいいじゃない!
……え?ザックリしすぎ?
いやいや、「作業療法マニュアル31」では……
- 「おしぼりにアロマオイルを滴らし個別に渡す」
- 「リラクゼーション目的でアロマを使う」
と書いてありますよ。
先人の知恵、神の火を盗むのは一つのやり方です。
とはいえ、もう少し具体的に……ですよね。
なので「香りを楽しむ」方法を一つ共有します。
芳香浴をしてみよう!
ということで、芳香浴をお勧めします。
精油の体内ルートは……
- 嗅覚:鼻→嗅上皮→嗅細胞インパルスへ変換→嗅神経→大脳辺縁系
- 吸入:鼻・口→気管支・肺、血管→全身
この二つ。
芳香浴も色々とやり方がありますが……
作業療法マニュアル31の例でいけば、
- 「電動ディフューザーで室内に香りを満たす」
のが最も簡単です。
何せ、室内で火を使わずに済みますから!
この方法なら、メインの作業は別に準備し……っと、それでは目的からズレますね。(詳しくはMARTで聞いてください)
ボディーワークと組み合わせる
組み合わせとしては、リラックスできる場にしつつ、香りに集中できるボディワークなどが合目的ですね。
呼吸を意識しながら行うストレッチなどを行う場で、ディフューザーを設置して行うといいでしょう。
その際、「呼吸を意識して」という声がけをしていたものを「○○の香りを鼻から吸い込んで」などと言い換えるといいですね。
回想法や香りそのものを楽しむ時間に
ボディーワーク以外なら回想法の時に使うのも手です。
「○○の香りで思い出すことはありませんか?」
などです。
季節の野菜や果物そのものを準備したこともありました。
冬ならミカンの皮を紙コップに入れて皆に回したり。
夏ならきゅうりやトマトを農耕チームから融通してもらって、青臭さで……
え? アロマじゃない?
まぁ、きゅうりやトマトは最後はみんなで食べちゃいましたからねぇ。
まとめ
う〜ん、あまり具体的と言うほど具体的な話ではありませんでしたね。
基本は作業療法マニュアルや文献で言われる使い方をそれぞれの現場でどう使うのか、です。
更に、精油毎の成分や効果、適応なども紹介できればよかったのですが、さすがにこれ以上誌面は割けませんでした。
海外では一定の治療効果が認められている方法です。
より実践的に……例えばキャリアオイルを使用してトリートメントを行いたいなどであれば、きちんと学んで行うことが大切です。
冒頭で「作業療法」について法律や定義に触れましたが、ある程度幅を持たせてもらっている、解釈の余地がある医療です。
だからこそ、行う側の知識や実践に対する倫理観などが大切になると考えております。
様々な文献もあるので末尾に紹介しておきますね。
自ら調べ、現場に役立てていただければと思います。
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本日は、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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参考文献
- 作業療法マニュアル31精神障害:身体に働きかける作業療法アプローチ
- 理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年六月二十九日法律第百三十七号)
- 作業療法学全書2基礎作業学
- 脳内物質のシステム神経生理学/有田秀穂著
- 人間性のニューロサイエンス/有田秀穂著
- ヘルシーエイジングのための自然療法/川嶋朗著
- アロマテラピーの教科書