身体に働きかけるシリーズ9回目。
「回復期後期」や「維持期」に対して行われる作業療法例を紹介しています。
第1回の記事 精神科で身体介入をする目的とタイミングとは?
第2回の記事 精神科で身体リハを行う際の注意点とは?
第3回の記事 記憶に残るリハビリにする方法
プログラム紹介編
身体に働きかける作業療法のヒント(1)「身体感覚の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(2)「散歩の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(3)「アロマの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(4)「ストレッチの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(5)「合唱の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(6)「美容クラブの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(7)「農耕作業の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(8)「朗読会の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(9)「調理実習の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(10)「外来・デイケアの最適化」
今回は「調理実習」です。
身体活動を社会的活動に結びつけるプログラムとして有用な調理実習。
もちろん、作って食べるだけではありません。
退院後の生活イメージにつなぐことを目的にしています。
Table of Contents
■維持期の目的(おさらい)
まずは維持期の目的をおさらいいましょう。
維持期では、療養病棟で医療的支援を受けながら生活される方と、地域のなかで生活しながら社会参加する方に分かれます。
作業療法の目的は、
- 再燃・再発の予防
- 生活の質の維持・向上
- 社会参加の援助
となり、
その目的に向かって身体に働きかけるには、
- 楽しみながら生活体力を維持する。
- 健康の自己管理ができる。
ことを目指します。
今回は、病院、施設内維持の方向けに話を進めます。
■調理実習はどこまで?
「調理実習」……作って食べるだけでは、楽しむだけになります。
退院後の生活をイメージしてほしいですね。
なので……献立を作り、買い物に行き、調理をして、食べて、片付けをして、振り返る。
自分で生活をする時ならではの手抜き方法も考えておきたいですね。
■調理実習で促したいことは?
作業療法マニュアルによれば、身体活動を社会的活動に結びつけるために促す要素は以下の通り。
- 社会生活技能を習得する。
- 社会参加をはかる。
- 退院後の生活をイメージする。
- 健康(心身両面)のコントロールができる。
- 楽しみにながら生活体力の向上をはかる。
- さまざまな社会資源を利用する。
「調理実習」では、特に「社会生活技能を習得する」と「退院後の生活をイメージする」に注目します。
■プロセスごとにポイントを紹介
先ほど「献立を作り、買い物に行き、調理をして、食べて、片付けをして、振り返る」と紹介しました。
「社会生活技能を習得する」と「退院後の生活をイメージする」を促すことを目的に、これらのプロセス毎にポイントを確認します。
[献立を作る]
患者さんは食べたいものを作りたがります。楽しみのためならいいですが、社会生活に戻るためのプログラムです。
「何のためのプログラムなのか」を確認しましょう。一人分に必要な数、量は? それを参加人数分で考えると?
食材の購入はどうする? いつ買いに行って、保存はどうして……と、現実的な計画をする練習の機会にしましょう。
[買い物に行く]
買い物はワクワクしますね。病院にはない彩り、キラキラした売り場。患者さんには眩しい世界です。
ついつい計画にないものを買いたくなるのは僕達であってもそうですね。でも、その前に買い物をする場所に辿り着かなければなりません。交通ルールはどうか? 行って帰ってくる距離は? 公共交通機関は使う必要があるのか? 何気なく帰宅途中のスーパーやコンビニに寄って買う……とはいきませんよね。もちろん金銭の計算、やりとり。困った時に助けを求められるのか?考えることはたくさんあります。
[調理]
日々食事を作るには、効率的な手順で行うことが有効です。とはいえ、これまで調理すらしてこなかった方には未知の領域。
安心して失敗を重ねる場にしていきましょう。日常生活のなかでは、如何に手を抜きつつ、負担のないなかで、バランスの取れた食事を準備するのかがカギになります。「調理実習」と言いましたが、回数を重ね、生活をイメージするなか、退院が近づくにあわせて、「どこまで自分でやるのか」を考える機会にしましょう。昔ながらの自炊だけが正解じゃありません。コンビニ飯でも、お弁当でも、レトルト、冷食、なんでも使いこなしていきましょう。
[食事]
楽しく食べて、美味しい!とほくほく顔になるのもいいですが、「食事マナー」はいかがでしょう?
適切なタイミングで適切な教育を受けていない方もいます。食事中にやってはダメな行為、周囲を不快にさせない行動を確認する場になります。リハ室にいると、食事を直接確認する機会ってありませんよね。病棟からの情報である程度わかっても、直接みることに勝るものはありません。箸の持ち方から確認が必要かもしれませんよ。お箸……ちゃんと使えてますか?
[片付け]
食べて終わりではありません。食べ終わったらすぐに片付ける。生活をイメージするなら、食器や調理器具の片付けをいつするのかも考えながらやりましょう。
[振り返り]
色々ありすぎますね。ただ食べればいいとはなりません。ここまでの全てのプロセスを振り返り、次回にどう活かすのか、生活場面でどのように継続してやれるようにするのかを一緒に考えましょう。
■全て1日でやる必要はない
プロセスがたくさんありましたね。
全てをその日にやろうとしないでくださいね。
むしろ「計画」、「買い物」、「調理」、「振り返り」と、目的ごと数回に分けて行うのが現実的。
そうすることで、更に目的が明確になるので、参加メンバーも迷わなくなるでしょう。
■まとめ
今回は「調理実習」のポイントを紹介しました。
でも、「調理実習」をいきなり持ってきたのは時期尚早だったかも。
先に「買い物実習」や「ピクニック」など、プロセスを分解して、別なプログラムにした方がいいかもしれませんね。
「社会生活技能を習得する」と「退院後の生活をイメージする」に注目しましたが、小さなプロセスで小さく成功を重ねるよう、参加メンバーさんたちにあわせて調整してくださいね。
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本日は、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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骨盤帯、体幹Back(脊柱・胸郭)、体幹Front(腹部軟部組織)、上肢、下肢、それぞれの働きかけ方を紹介しています。
参考文献
- 作業療法マニュアル31精神障害:身体に働きかける作業療法アプローチ
- 作業療法学全書2基礎作業学
- ひとと集団・場【新版】治療や援助、支援における場と集団のもちい方