身体に働きかけるシリーズ6回目。
前回までは「回復期前期」に対して行われる作業療法例を紹介しました。
第1回の記事 精神科で身体介入をする目的とタイミングとは?
第2回の記事 精神科で身体リハを行う際の注意点とは?
第3回の記事 記憶に残るリハビリにする方法
プログラム紹介編
身体に働きかける作業療法のヒント(1)「身体感覚の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(2)「散歩の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(3)「アロマの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(4)「ストレッチの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(5)「合唱の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(6)「美容クラブの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(7)「農耕作業の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(8)「朗読会の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(9)「調理実習の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(10)「外来・デイケアの最適化」
今回からは「回復期後期」……身体活動を通じて「社会的なつながり」を促していくアプローチを紹介します。
初回は「美容クラブ」です。
そう、整容は「自分の身体に関心を向ける」アプローチ。社会に繋がる第一歩です。
Table of Contents
■回復期後期の目的
回復期後期では、現実感が戻ってきた時期です。
心身の基本的な機能が回復してきたら、社会に戻る準備を始めます。
前期までは「準備の準備」でしたが、いよいよ「準備」が始まります。
自分に合った生活をする為に必要な技能の習得とヘルプが出せる環境づくりをしながら、退院と社会生活に向けて準備することが目的となります。
ですので、身体に働きかける作業療法として行うポイントは3つ。
- 楽しみながら生活体力をつける。
- 健康の管理が行える。
- 安定した生活のリズムを作れる。
となります。
■促す要素は?
今回は「美容クラブ」と名づけました。
その名の通り「美容」や「整容」、「身だしなみ」に目を向けます。
言い換えれば「自分の身体に関心を向ける」こと。
作業療法マニュアルでは以下の5つが促すポイントとして挙げられていますね。
- 規則的な生活を維持する。
- 社会参加に向けて意識づける。
- 社会参加に必要な生活技術を確認する。
- 自分の健康に関心が持てる。
- 自分らしさが表現できる。
全て目的と合致したポイントばかりですね。
■最初に失敗談を一つ。
「美容クラブ」として集団で開始しましたところ、女性だけではなく男性も参加してくれました。
「自分の身体に関心を持ってくれた」とOTの面々は思っていましたが、化粧やマニキュアを始めてしまい病棟スタッフから注意を受けていまいました。
最初の構造で「男女を分けて開催」することができれば良かったのですが、運用上難しく。
同室内でグループを分け、OTスタッフも少し厚めに行うこととなりました。
とまぁ、僕の失敗からも「男女別々のグループで実施する」ことと、「目的の説明」が大事です。
■男性向けには?
では、男女それぞれの目的はどこにあるのでしょうか?
大きな目的は「社会参加に必要な生活技術を確認、習得する」と同じなのですが、その手段で男女の違いがあります。
男性は「整容」が中心となり、女性は「整容」ののちに「化粧」となります。
男性の場合は「整容」と言った通り、社会通念上、社会生活を送る上で周囲から清潔に見られることがポイントです。
そのため、生活を送る上で基本となる着替えや洗濯の話題も含まれてきます。
基本的には、顔の洗い方、髭の剃り方、眉毛の整え方、鼻毛の処理、爪切りに歯磨き……と、衛生面に直結するものを確認し、必要なものを習得していくことになります。
■女性向けには?
女性の場合、よほど精神が荒廃していない限り整容や衛生面が、比較的保たれていました。
(そうでは無い事例があれば是非コメントなどでシェアをお願いします)
もちろん、注意力などの問題でもう一歩!ということはあります。一緒に確認が必要ですね。
ですが、より注目する必要があること、それが「化粧」です。
化粧自体のプロセスが多い、顔を立体化する、場にあわせた色合いを選ぶなど、細かなポイントが多々あります。
それだけではなく、その日のメンタル面の調子がより顕著に現れます。
- 「化粧が濃くなる」
- 「派手な口紅を選びたがる」
- 「鼻が曲がるほどの香水を振りかける」
など、清潔や健康的とは程遠い方向に進んでいきます。
あくまで目的は「社会へのつながりを意識する」ことです。
社会のなかでどのように見られるか、をフィードバックしながら行うことがカギとなります。
■シェアタイムの重要性?
このような「社会とのつながり」を意識してもらうためのプログラムには、「シェアタイム」を必ず入れましょう。
茶話会のように、お茶を飲みながら和やかな雰囲気のなかで、それぞれの体験を話しやすい場を整えます。
そのうえで、一体どんな話をするのか?ですよね。
メンタルヘルス危機に陥った方達のなかには、「常識」を理解できない方もいます。
一般的な意味での「常識がない」のではなく、「常識」という感覚をもつ機能に障害をもっている方もいます。
「間主観性」と言って、「自分」と「他人」がいて、「共同世界」のなかに生きている……それが「常識」なのですが、自分と他人の垣根を感じられない為に、不思議な行為として目に映る場面などがあります。
これら「いわゆる常識」や「社会通念」や「暗黙の了解」がこの場で露見することもあります。
常識や社会で求められることを確認し、共に学び、身につける場としてこのような時間を必ず組み込んでおきましょう。
■実践に向けて
今回も具体的な流れや準備物の話は割愛しました。
それぞれの現場で行っている方法や手順があるかと思います。
そちらを尊重しつつ、目的や注意のポイントを確認する一助となれば幸いです。
具体的な質問やご相談、こんな記事をお願い!
という声がございましたらいただければ、リハビリカレッジの公式LINEとお友達になって、トークでコメントをくださいね^^
本日は、最後まで読んでいただきありがとうございました。
身体に働きかける集団セッションをしたい方
精神科OTの為の身体アプローチ入門講座がオススメです。
個別の身体介入法と集団で行うものを動画で収録しました。
講師の齋藤がYouTubeでも色々紹介しています。
疾患別リハでしっかりと身体に働きかけていきたい方
組織滑走法(TGA)がオススメです。
骨盤帯、体幹Back(脊柱・胸郭)、体幹Front(腹部軟部組織)、上肢、下肢、それぞれの働きかけ方を紹介しています。
参考文献
- 作業療法マニュアル31精神障害:身体に働きかける作業療法アプローチ
- 作業療法学全書2基礎作業学
- ひとと集団・場【新版】治療や援助、支援における場と集団のもちい方
- 脳内物質のシステム神経生理学
- 人間性のニューロサイエンス―前頭前野、帯状回、島皮質の生理学