【作業療法士の苦手克服講座】新人向け!身体に働きかける作業療法のヒント(7)「農耕作業の活用」

農耕作業はリハビリか?

身体に働きかけるシリーズ7回目。
前回から「回復期後期」に対して行われる作業療法例を紹介しています。

 

第1回の記事 精神科で身体介入をする目的とタイミングとは?
第2回の記事 精神科で身体リハを行う際の注意点とは?
第3回の記事 記憶に残るリハビリにする方法
プログラム紹介編
身体に働きかける作業療法のヒント(1)「身体感覚の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(2)「散歩の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(3)「アロマの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(4)「ストレッチの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(5)「合唱の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(6)「美容クラブの活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(7)「農耕作業の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(8)「朗読会の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(9)「調理実習の活用」
身体に働きかける作業療法のヒント(10)「外来・デイケアの最適化」

 

今回は「農耕作業」です。

一見、社会に戻る準備になるの?
と思う事でしょう。

それらも含めて紹介しますね。

 

■回復期後期の目的(おさらい)

作業療法の目的

前回もお話ししましたが、大切な事なので繰り返します。
回復期後期では、現実感が戻ってきた時期です。
心身の基本的な機能が回復してきたら、社会に戻る準備を始めます。
前期までは「準備の準備」でしたが、いよいよ「準備」が始まります。
自分に合った生活をする為に必要な技能の習得とヘルプが出せる環境づくりをしながら、退院と社会生活に向けて準備することが目的となります。

ですので、身体に働きかける作業療法として行うポイントは3つ。

    • 楽しみながら生活体力をつける。
    • 健康の管理が行える。
    • 安定した生活のリズムを作れる。

となります。

 

■農耕作業の目的は?

農耕作業

では、農耕作業で促していく要素は何だと思いますか?

    • 楽しみながら体力をつける?:確かに、農耕作業は重労働もあります。体力はつきそう
    • 健康の管理が行える?:健康を農作物や農地そのものの状態とするなら、管理方法も応用できそう
    • 安定した生活のリズムを作れる?:作業のために規則正しい生活にならざるを得ないから、リズムを作るにはいいかな?

どれも当てはまりそうですね。
これらを引っ括めて、「自然と一体化する」ことが目的になります。

 

■自然と一体化って、随分眉唾な……

自然と一体化

自然と一体化」と言われて「え?それって、いいの?」と思いましたよね。
すみません。少しばかり行間をすっ飛ばしました。

もちろん「自然と一体化」の言葉通りの意味ではありません。
でも、少し考えていただきましょうか。

質問:作業療法として「自然と一体化」するとは、どんな事を期待しているでしょう?

 

■自然と一体化するとは?

環境に働きかける

この「自然と一体化する」とは、狩猟時代から農耕時代に移行する際に求められた能力と言われています。
それまでいち早く獲物を見つけ、狩るための身体能力が求められていました(狩猟時代)。
ですが、農耕をするようになり、土地に居付き、食糧を自ら生産するようになりました。
すると、自然……つまり環境変化の影響を大きく受けるようになり、その変化をいち早く察知し、自らが生活しやすいように、仲間と環境に働きかけることができる能力が求められるようになりました。
つまり……「自然と一体化する」とは、「環境に働きかける」ことであり、その環境を整えるために「仲間と協力する」ことを指します。

ね、社会性につながってきたでしょう?

 

■園芸ではなく農耕作業にする理由

園芸

あれ?でも「園芸プログラム」もあるよな……と思った方。鋭いですね。

農耕と園芸で比較すれば、園芸の方が小規模で行えますし、場合によっては個人でも行えます。
そのため、どちらかといえば「生活リズムづくり」や「楽しみながら体力作り」が主目的になります。
具体的には、長期計画を立て、それにあわせて毎日行動する。天候次第でイレギュラーも発生するので、咄嗟の対応、急な計画変更に対する柔軟性を持つ事につながります。大失敗の擬似体験、守られた状況での失敗が体験できるのもいいですね。

対して農耕では、規模が大きくなるので、必然的に「協力が不可欠」になります。
「個人で気楽に」とはゆかず、お互いが責任をもって行動することが求められます。
より「他者のなかで自分が生活する」その擬似体験が主目的になります。

 

■日本ならではの問題

稲作

農業……なかでも稲作文化である日本ならではの問題もあります。
実は麦作文化の欧米と異なり、日本では同じ目的で行動するときの集団の凝集性が高まると言われています。
ざっくり言えば、稲作の方が麦作より工程が多くデリケートなため、人手と協力が不可欠だからです。

一見、良さそうに見えますが、昨今のSNSを見て感じる通り、日本は「同調圧力が強い」んです。

農耕を通じて擬似的な村、集落という社会的な活動を行う場ができます。
このなかで、それぞれがどんな人間関係を生み出すのか、どのように他人をみるのか、どのように自分をコントロールするのかが見えてきます。
「あの人は、仕事が適当なのに食べるものを食べて!」
不満を言い出したら介入のチャンスですね^^

 

■まとめ

今回は「農耕作業」について紹介しました。
身体に働きかける作業療法ではありますが、より社会性の強いプログラムであると思っていただけたら嬉しいです。
環境変化に適合して、そのなかで社会的なつながりを如何に作っていくのか……
社会生活の準備プログラムとして、実践してみてはいかがでしょう?

 

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リハカレ認定講師 齋藤 信

 

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