パーキンソン病のリハビリテーション④大脳皮質-基底核ループ②〜運動ループ〜

前回の内容はこちら

パーキンソン病のリハビリテーション①〜疾患の機序を知ろう!
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/3792

パーキンソン病のリハビリテーション②〜薬物療法の役割とセラピストの目〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/3933

パーキンソン病のリハビリテーション③〜大脳皮質-基底核ループ①
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/4173

今回は大脳皮質-基底核ループの運動系ループについて。

なぜパーキンソン病で運動系ループ?

パーキンソン病のリハビリテーションに問題になってくるのは、無動・筋強剛(固縮)、姿勢反射障害といった運動系の障害が主となります。ドーパミン不足による基底核からの抑制系出力の増加により運動系の出力全体が抑制されてしまいます。

この運動系ループが実際にどのようなルートで、ドーパミンがどこに作用して、運動の制御をしているのか?
を知ることで、なぜパーキンソン病の4大症状、特に「随意性は保たれているのに動けない」という状態が想像できるようになります。(決して動きたくない、頑張ればなんとかなる、ということではない)

運動系ループ

大脳皮質からの運動の情報は皮質脊髄路を通る(随意運動を司るルート)他に、同時に基底核(線条体)に投射され、基底核の中で情報の抑制・促通を時系列に処理して、最終的に運動を開始したり終了したりという制御を行なっています。

基底核内にあるルートとしては3つあります。
1、ハイパー直接路(皮質→視床下核→淡蒼球内節・黒質網様部) *淡蒼球内節・黒質網様部が基底核の出力部となる
2、直接路(皮質→線条体→淡蒼球内節・黒質網様部)
3、間接路(皮質→線条体→淡蒼球外節→視床下核→淡蒼球内節・黒質網様部)

これら3つのルートがそれぞれ時系列に作用します。

パイパー直接路は、運動企画中には運動全体を抑制する役割を持っています。

次に、直接路は、運動の準備ができたら姿勢制御に必要な筋緊張のコントロールと、運動を開始するために、
部分的に抑制を弱めます(結果的に運動が出現する)。

最後に間接路が運動を終了させるために、再度運動全体の抑制を強めます

つまり、ハイパー直接路は不要な運動を開始しないように常にブレーキを踏んで、直接路がブレーキを部分的に緩めることで、運動が出現し、
運動を終了させるために間接路がまたブレーキをかける。そんなイメージです。

ここでポイントになるのが、ハイパー直接路と間接路は運動を抑制する。直接路だけが運動を開始させるというところ。

上図をみてもわかるように、ドーパミンは線条体に作用しており、線条体の中にある直接路の促通と間接路の抑制を担っています

つまり、ドーパミンが不足すると、ハイパー直接路は通常通り運動開始前の運動を抑制。直接路はドーパミンで促通されない(ブレーキを緩められない)ので、運動開始が困難に。間接路は抑制されず活発化するので運動を抑制する方向に働きます。

このように基底核内での情報伝達の不備により結果的に基底核からの抑制系出力が強まり、常に視床、脳幹を抑制する方向に働きます。大脳皮質-基底核ループは、大脳皮質→基底核→視床→大脳皮質というループなので、結果的に基底核から出る抑制系出力が強まると、視床を介して大脳皮質の機能を低下させます。これが無動や動作緩慢、+脳幹が司る機能(筋緊張のコントロール、歩行リズム生成)が低下することによる筋強剛や歩行障害に繋がっていきます。

その他のループについて

運動系以外にも眼球運動、前頭連合系、辺縁系とありますが、回路としては同じ回路です。最初の大脳からの情報が、運動野なのか?前頭連合野なのか辺縁系なのか?出力先の視床の部位が違うなどでそれぞれ役割が違っています。前回も示したように、4つのループがあってそれぞれが独立して機能しているのではなく、同時進行的に並列に機能しています。

つまり、ドーパミン不足による基底核の障害は運動系だけでなく、社会性や情動など高次脳機能をも低下させます。
これが、パーキンソン病が4大症状以外にもたくさんの非運動系の障害が出現する原因につながっていきます。

最後に

ここまでの説明でわかることは、ドーパミン不足が症状の根本にあり、薬物療法がかなり重要な位置を占めているということです。
また、進行性疾患のため、徐々に症状が悪化していくという現実です。

疾患自体は長い年月をかけて進行していきます(個人差あり)。ですが、私たちが関われるその時々の状況に合わせて、リハビリテーション職として関われることがあるかと思います。運動そのものを改善できなくても、ADLの自立に向けた工夫や、QOLの向上には関わっていけると思います。次回は少しリハビリテーションという視点からパーキンソン病を考えていきたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師 理学療法士 中嶋 光秀

 

 

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