前回より始まった「グラフィック・メディスン」シリーズ。
いわゆる「医療マンガ」をコミュニケーションのツールとして、とりこぼされがちな「個」にも注目し、相互理解を深めていこうというものです。
前回は言葉や概要の紹介をしました。
・グラフィック・メディスン(1)医療マンガはひとを救うのか?
・グラフィック・メディスン(2)医療マンガで医療教育は変わるのか?
・グラフィック・メディスン(3)マンガをつを使うワークを紹介!
・グラフィック・メディスン(4)マンガは読みやすいのか問題?!
今回は「医療教育」に注目します。
僕たちリハビリテーション専門職の教育にどんな影響をもたらすのか。
そんなお話です。
Table of Contents
■前回の復習「グラフィック・メディスンとは?」
日本の医療マンガ50年史(一般社団法人日本グラフィック・メディスン協会:編)ではこのように書かれています。
「グラフィック・メディスン」とは、医学、病、障がい、ケア(提供する側および提供される側)をめぐる包括的な概念であり、数量化による捉え方(一般化)が進む中でこぼれ落ちてしまいかねない「個」のあり方に目を向け、臨床の現場からグラフィック・アートまでをつなぐ交流の場を作り上げようとする取り組みです。その一環として、マンガをコミュニケーションのツールとして積極的に取り上げたり、漫画の制作を通して気持ちや問題を共有する活動がさまざまに展開されています。
「個」のあり方に目を向けることは「ひとを見る」ことにつながります。
リハビリテーションの基本的な考え方にも合致しますね。
■リハビリ教育にマンガは有効か?
医学教育の長年の課題が何かご存知でしょうか?
「病いの様々な経験の実感」と言われています。
そのため、医学を題材にした小説、短篇、詩、演劇を道具として、擬似体験の場を増やそうとしてきました。
病いを得ると、その人は何を感じているのでしょう?
何を思い、またその病気がもたらす社会的な影響をどう考えるのでしょう?
患者となったことで、様々な想いが交錯し、こんがらがった思考のまま、医療従事者とやりとりをする。
医療マンガは、そのこんがらがった情緒も含め、教室の外にある現実の人生に対して準備をさせることにつながったと言われています。
加えて、視覚志向性の強い教育者はアートを道具として、観察力の向上や演繹的推理のレベルアップに寄与したそうです。
さて、では、マンガはそれらの文学的なもの、芸術的なものと比較して何が違うのでしょうか?
実は違うというより、文学的テクストや視覚情報の集合体であるアートの特性に乗っかった表現方法の一つと考えるべきではないでしょうか?
ざっくり言えば、古典的で有効な教育方法のいいとこ取りをした、と言えるかもしれません。
それが「医療マンガをリハビリ教育に活用すると有効!」と提案したい理由です。
■教育や学びのハードルを下げる!
みなさん、まだまだ批判的な視点で見ているかもしれませんね。
更に批判的意見を呼びそうですが、もう一つ提案したい意見があります。
それは「リハビリの教育や学びのハードルを下げる」と言うこと。
下げてどうするんだ!
と言いたいかもしれませんが、ちょっと待ってください。
認知特性が個人で違うことはお気づきかと思います。
文章を読んでガッツリ学びたい方は、ベースとなる知識もあるし、論文などを読んでも苦にならないでしょう。
ですが、映像や簡略化された記号としての絵から学びが深まるタイプの方には、文学的テクストは苦痛になります。
もちろん、感覚的に学ぶ方もそうです。
ですが「医療マンガ」を用いることで、誰がみても分かりやすい内容で伝えることができ、かつ行間や感情を絵やマンガ独特の手法で表現することで意味を強調することができます。
認知特性による教育格差を無くすこと、コミュニケーションの行き違いを無くすことにつながると思いませんか?
これが「リハビリの教育や学びのハードルを下げる」と提案したい理由です。
■療法士教育の到達地点
先に医学教育の課題を「病いの様々な経験の実感」と言いました。
では、それをすることで療法士教育はどこに向かおうとしているのでしょうか?
グラフィック・メディスン・マニフェストでは
「医学教育とは、医師のような考え方、振る舞い方を学生に教えることに関係している。考えることが特定の認知過程を強調するのに対し、振る舞うことは測定可能なスキルや結果を強調している」
と言っています。
僕は療法士教育も同じと考えています。
療法士の仕事は、医師からの指示のもと、患者の物語(現病歴など)と、体(物理的情報)と、個の物語り(個人因子やそのひとの想いや価値観)を、そのひととともにすり合わせながら、新しい物語りをつむぎ出していくことと考えています。
療法士としての「考え方」や「振る舞い方」を手に入れることで、仮説検証のスピードが上がり、その方とのコミュニケーションを通じてリハビリ介入の最適化がスムーズになると考えています。
■療法士のための医療マンガがもたらすもの
医療マンガを教育で活用するには、3つのステップがあると考えています。
- 読む。
- 話す。
- 描く。
です。
読む。
テーマに合ったものを選択する必要はありますが、まずはマンガを読むことが最初です。
それはたった一つのコマでもいいです。物語になっているものでもいいです。
マンガは様々な意味を持つ記号の集合体です。
吹き出しのセリフだけでははなく、登場人物の表情、立ち位置、効果線、コマの中の空白(空間)までも意味を持ちます。
そこから何を読み取ったのかが、次の「話す」につながります。
話す。
読んだ後に、そのマンガからあなたが何を思ったのか、何を感じたのかをアウトプットします。
そこに正解はなく、様々な解釈が生まれます。
その解釈をもとに、さらにその登場人物を深掘りしたり、まったく異なった価値観や世界観で生きている可能性すらやりとりされるでしょう。
もちろん、その物語の続きはどうなっているのか、どうなっていくのかをディスカッションすることも、共感力や洞察力を高めることにあります。
描く。
療法士のなかにはマンガそれ自体を描こうとすることに苦手意識を持つかもしれません。
これまで臨床実習を潜り抜け、国家試験に合格し、現場で様々な患者さんから感謝の声を受け取った療法士ほど、拒否反応を示したり、自身のできなさ加減を目の当たりにすることになります。
ですが、医療はチームワークが大切です。
マンガも一人で全て描く必要はありません。
一つのテーマに沿って、マンガを描くことで、集団の相互作用が働き、チーム学習を促進します。
虚構の物語であったとしても、現場に戻った時、この場で体験したことが活きてくるでしょう。
まとめ
少し長くなってきたので、今回はここまでにします。
医療マンガなんて……と斜に構え、エンタメの要素だけを見るのではもったいないです。
教育や学びのハードルを下げ、療法士の考え方や振る舞い方を学ぶことにつながります。
加えて、より共感力や洞察力を高め、チームで目的に向かう体験までできます。
次回は、これらの要素を使ったワークを紹介しますね。
お楽しみに!
つづく
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という声がございましたらいただければ、リハビリカレッジの公式LINEとお友達になって、トークでコメントをくださいね^^
本日は、最後まで読んでいただきありがとうございました。
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