心不全に対するリハビリテーション③〜心機能分類と運動の目安〜

【前回までのおさらい】

心不全に対するリハビリテーション①〜心不全を知る〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/4904

心不全に対するリハビリテーション②〜心臓の機能を知る〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/4948

前回、前々回と心臓の機能と心不全について簡単に解説しました。心臓にはポンプ機能として「拡張・収縮」機能があり、拡張を担うのが右房・右心室、収縮を担うのが左房・左心室になります。

心不全症状と照らし合わせると、左心不全になると収縮機能が低下します。全身に血液を送りにくくなるとともに、心臓内の血液も外に出しきれないので心臓内に血液の渋滞が起こります。すると肺静脈も渋滞し、肺でうっ血を起こします。この流れが左心不全で肺うっ血症状を出す流れになります。

右心不全も同様の流れで、拡張機能に問題が起き、全身の血液を心臓に回収できないので、体静脈に血液が渋滞します。そのため全身性に浮腫が起こります。この流れが右心不全で体静脈うっ血の症状を出す流れになります。

【心機能の分類】

心不全のステージに合わせて、心機能の分類として「NYHA(ニーハ)心機能分類」というものがあります。

 

  • Ⅰ、心疾患はあるが身体活動に制限はない
    日常的な身体活動では、著しい疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じない。
    Ⅱ、軽度ないし中等度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
    日常的な身体活動では、疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる
    Ⅲ、高度な身体活動の制限がある。安静時には無症状
    日常的な身体活動以下で、疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる
    Ⅳ、心疾患のため、いかなる身体活動も制限される。心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。
    わずかな労作でこれらの症状は増悪する。

 

この分類でポイントとなるのは、ⅢとⅣの境目。ここでの大きな違いは安静時の症状の有無。
Ⅳでは安静時に症状が出る状態なので運動は処方されません。つまりリハビリの対象になるのはⅠ〜Ⅲになりますが、
実際に療法士が介入するのはⅡかⅢの場合が多いと思われます。

では実際に運動を処方する場合、個別性に配慮しながらどのようにして運動を選択していくべきでしょうか?

【運動強度の決め方】

よくある運動強度の決め方としては心拍数とボルグスケールを用いた方法があります。

 

運動時心拍数−安静時心拍数)÷(最大心拍数−安静時心拍数)×100 
*最大心拍数は(220ー年齢)、高齢者なら(207ー年齢)

 

ここで求めた運動強度で運動するとボルグスケール上どの範囲にあるのか?(理想は楽〜ややキツイ)を判断して、
運動時の心拍数を規定するものです。

まず最初は運動強度50%程度で心拍数を設定し、その強度がボルグスケール的にどこに当てはまるのか?
を確認していけばOKです。例えば47歳の私を例にすると

 

50%=(運動時心拍数−54)÷(173−54)×100

 

となり、運動強度50%時の運動心拍数は約113となります。

ひとまずここを上限として運動した時に、ボルグスケール的に「楽〜ややきつい」の範囲であればOKです。
*基本的な運動中止基準のバイタル計測は欠かさないことが前提。

そのほかにもMET’sを用いたものもあり、こちらは下記のURLを参照してください。

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
出典:急性慢性心不全診療ガイドライン2017改訂版 P 31 表19、表20 を参照

 

MET’sを用いる際は具体的な運動と、SAS(表19参照)という質問紙を用いて、息切れが出現する最小運動量を確認することができます。

これらの運動強度を設定した上で、運動時・運動後の心不全症状の悪化がないかどうかを経過観察していく必要があります。

最後は結局個別のモニタリングが重要になります。毎週の体重の増減(うっ血の増加)、運動翌日の疲労度、同じ運動強度での疲労感の違い、同じ運動内容での心拍数の変化など、どんな運動をさせるか?よりも重要な項目になりますので、覚えておきましょう。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師 理学療法士 中嶋 光秀

 

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