心不全に対するリハビリテーション⑦〜運動の効果と自律神経〜

【前回までのおさらい】

心不全に対するリハビリテーション①〜心不全を知る〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/4904

心不全に対するリハビリテーション②〜心臓の機能を知る〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/4948

心不全に対するリハビリテーション③〜心機能分類と運動の目安〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/5011

心不全に対するリハビリテーション④〜心機能が低下すると腎機能も低下する! 心腎連関〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/5101

心不全に対するリハビリテーション⑤〜看護師国家試験問題を解いてみよう〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/5151

心不全に対するリハビリテーション⑥〜心不全の運動療法〜
https://iairjapan.jp/rehacollege/archives/5211

前回は運動療法について、「運動」だけではなく活動と参加を意識した「日常生活活動」にも注目しては?
という内容でした。

今回は運動がなぜ心不全に効果があるのか?を自律神経との関連で考えていきたいと思います。

【心不全になると何が起こる?】

心不全状態になると何が起きるのか?という事を極々単純にお伝えするとすると、
心臓のポンプ機能が低下するにより心拍出量が低下することで全身への血液循環が滞り、
血液を多く必要とする組織に影響が出るという事です。

しかし、心臓には代償機転が備わっており、代償が効かなくなってくるとリモデリングと呼ばれる、
心肥大や心拡大に繋がっていきます。

【心臓の代償機転】

心臓には血液をなんとか送り出そうとする代償機転があり、この代償機転の長期化や破綻により、
心臓のリモデリングが起こり、心肥大や心拡大のような心筋そのものの変化を引き起こしてしまいます。

心臓の代償機構には大きく2つありますが、心臓内代償機転のリモデリングの他にもう一つ
心臓外代償機転というものがあります。

その中でも、自律神経系が関わる部分があります。

心拍出量(血圧)が低下すると・・・

1、圧受容器反射
2、交感神経
3、心収縮力、心拍数
4、心拍出量
5、血圧

という流れが通常の反応です。

正常の心臓では上記の働きで心拍出量(血圧)のコントロールの一部を行なっているのですが、
心不全になると心拍出量の低下が常にあるため交感神経が高まった状態が続き、一生懸命心臓から血液を送り出そうとする代償機転が
心負荷を高めるという負のループに陥ります。

この負のループを断ち切る薬剤としてはβ遮断薬というものがあり、これは交感神経の働きを
弱めるもので、交感神経の亢進からくる心負荷の上昇を抑える効果があります。

【運動と自律神経】

通常運動をすると交感神経は高まり、心拍数は高くなり、血圧・心拍出量も増加します。
逆に安静時やリラックス時は副交感神経が高くなり、心拍数・血圧等も落ち着いていきます
心負荷を増やさないという観点から見た場合、運動は交感神経系を高めるので、運動は禁忌では?
と思うかもしれません。

心不全に対しては運動療法が積極的に取り入れられている理由としては、前回もお伝えしたように
筋骨格系の向上によるQOLの増大が主な効果であります。

ただ、運動の強度によっては自律神経系に影響をもたらすという研究があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jalliedhealthsci/8/1/8_44/_pdf/-char/ja
出典:運動後の自律神経活動と心理的効果 保健医療学雑誌8 奥村裕, 江口輝行, 龜井亮良, 高橋秀典

簡単に結論だけお伝えすると、低強度の運動では交感神経系は高まらず、副交感神経が高まりやすく、
心理的効果としても不安や鬱の軽減などがみられた。という内容になります。

つまり、心不全患者に適応されるような低強度の運動は、副交感神経系を高めることで自律神経のバランス
を取り、β遮断薬のような役割を果たす可能性があるという事です。

ただ、この文献でも明記されていますが、この研究は健常者での基礎研究であるため実際の心不全患者
に当てはまるかどうかはまた別の話で、さらなる研究が必要であるともされています。

まだまだ自律神経に対する運動効果についてはエビデンスを構築すべく研究が行われている段階
ではありますが、私たちが運動療法を心不全患者さんに提供する以上、その効果の仕組みが
明確になってくれることを切に願います。

心不全患者さんへの運動の効果についてはまだまだ色々な観点があります。
心不全に至った基礎疾患に対する運動効果もありますし、知れば知るほど何に対して運動療法を
行っているのか?を考え、効果判定をしなければなりません。

疾患別リハという括りでみれば、心リハの施設基準をとっていない病院施設のセラピストには
ピンとこないかもしれませんが、併存疾患として心疾患を抱えている方、心疾患に至る基礎疾患
を抱えている方は沢山います。主病名が運動器でも併存疾患もしっかり捉えて、包括的にリハビリテーション
が進められるといいですね。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師 理学療法士 中嶋 光秀

関連記事

  1. リハビリに役立つ血液検査データの見方2

  2. ROMの「エンドフィール(End feel)」をリハビリに活かす方法。

  3. パーキンソン病のリハビリテーション⑥〜運動療法って何をどうするの?②〜

  4. 何のために勉強する?〜多くの仮説を得るための視点を増やす〜

  5. 精神障害領域

    【作業療法士の苦手克服講座】閑話「わからなければ教えてもらえばいいじゃない!」

  6. 動作分析の前に姿勢分析? 姿勢分析の基本 番外編②〜姿勢・動作分析はなぜ必要?〜