「効率の良い」歩行とは?〜倒立振り子を考える〜

目指す歩行は何ですか?

歩行獲得に際し、目指す歩行は?と問われると、「正常歩行に近づけます!」「より効率的な歩行を目指します!」というような回答が聞かれると思います。ベースの疾患により、目指すゴールは多少違いますが、大まかにいうとこの2点が目標になることが多いと思います。

正常歩行を目指すとなれば、すでに「正常歩行」という力学的な「型」があるので、アプローチとしては明確です。
しかし「効率的な歩行」を目指すならば、いったい何を基準として考えれば良いのでしょうか?

効率的な歩行とは?

では「効率的」とは、何が効率的なのでしょうか?

ここでいう効率的とは「エネルギー効率」です。つまり、どれだけ少ない力で歩行ができるか?
筋力以外の力をうまく使えているか?ということです。

物体が移動するためにはエネルギー(外力)が必要です。人体ではその最たるが筋力ではあるのですが、
全て筋力でエネルギーを発生させようとするのは効率が悪いといえます。

倒立振り子の考え方

例えば、60kgの塊が2つあります。1つは地面の上、もう一つは1mの棒の上に乗っています。
この同じ重さの塊2つを1m先に移動させるには、どちらが大変でしょうか?

物理が苦手な人でも、図を見ればなんとなくイメージができると思います。
棒上にある塊の方が、より少ない外力で1m先まで移動ができます。

地面の上にある塊は、1m進ませるために、絶えず押し続けなければなりません。
しかし、棒上の塊は、一度前方へ倒れ出すと、重力の力を利用して前に回転していきます。
必要な外力は最初のきっかけだけで、あとは勝手に1m先に進んでしまいます。
(わかりやすくするため、細かな物理作用は無視しています)

この重りが高い位置にある形を倒立振り子といい、通常の振り子を逆さまにした状態です。

先ほど「効率がいい」ということは「エネルギー効率がいい」ということと定義しました。
つまり、地球上にある「重力」を利用して、より少ない外力(筋力)で移動するというのが、
効率の良い歩行になります。

物理的にいうと、位置エネルギーと運動エネルギーの関係を活用しています。実は、人間の体の構造は、この倒立振り子を利用して効率よくエネルギーを活用できるようにできています。

倒立振り子と人体の共通点

倒立振り子は重りが一番上にあり、その下に支えの棒があり、地面に対して1点で支えています。
人体でいうと、重い頭が上にあり、支えの棒として脊柱・下肢があり、地面に対しては基底面の狭い足部で支えています。

矢状面から見ると、より明確ですが、ランドマークを結んだ線から身体を見ると、頭も胸郭も重りとなる可能性のある部位が前にあります。
つまり、重りが上でかつ回転軸より前にあるので、勝手に前に倒れる構造にできているのです。

人の体で倒立振り子が機能しやすい条件としては、重心が高く(重りが上にある)、支持基底面が狭いこと。
よって、直立で立位姿勢を保持した状態が一番効率よく倒立振り子を使える状態なのです。

「効率の良い」歩行を目指すなら、重心は高い必要があります。対象の方は、膝や腰が曲がっていませんか?
その姿勢のまま歩くと、重心が低くなるため重力を効率よく使えません。その分筋力が必要になります。

効率の良い歩行を目指すなら、倒立振り子を活用できるように、まずは可能な限りの直立姿勢の獲得を目指してみましょう!

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師
理学療法士 中嶋 光秀

 

 

 

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