リハビリテーションの進行を難しくすることをいくつか挙げなさい、と言われたらどんなことをあげますでしょう?
- 高齢?
- 独居?
- 認知症?
それらは確かにリハビリテーションを難しくする理由の一つだと思います。
それでも私は「血液の状態」をあげます。
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◇リハビリ前にチェックしておきたい血液データ
血液データを見る場合に注目する点をあげたらキリがありません。
「血液データで見るべきランキング」を作っても、●位タイばっかりになるんじゃないでしょうか?
我々リハビリテーション担当者が血液データを見るのは、何か病気の診断をするためではありませんね。
診断は医師にお願いします。
我々が血液の数値を見るのは、運動が効果的に行える状況かどうかを知るためです。
そういう意味で、血液データの中でもヘモグロビン値には注意しています。
◇ヘモグロビン値を見る理由
リハビリテーションの中では、ほとんどの場合「運動」が行われます。
思考もしています。
ミクロな視点で見た時に、リハビリテーションで「細胞の活動(代謝)」を促しています。
酸素や水を用いて代謝が行われ、エネルギーが合成されます。
(酸素の供給が十分でない場面でも代謝は行われます)
その時、酸素を供給する役割は???
赤血球ですね。
赤血球の赤い色はヘモグロビンが理由です。
ヘモグロビンというのは
ヘム(鉄)+グロビン(タンパク質)
でできています。
◇ヘモグロビン値の低下が意味すること
ヘモグロビンが細胞に酸素を運んでくれるわけです。
このヘモグロビンの数値が低いということは何を表すでしょう?
極めて単純に考えたら、細胞に酸素が届かないことを指します。
酸素が少ない中での代謝活動でエネルギーが作れないわけではありません。
その場合は、生産効率が低いのと代謝産物として乳酸が合成されます。
細胞に酸素が届かないというのは、体を活動させるエネルギー源であるATPの量が不足することを指します。
そのため、ヘモグロビン値が低下していると、疲れやすかったり、やる気が出なかったり、息苦しかったりします。
時にはせん妄状態になったりもします。
そういう状態でリハビリテーションは進みそうでしょうか?
ですから、リハビリテーション介入の際に「バイタルサイン」といって脈拍、血圧、SpO2をチェックするだけでなく、ヘモグロビン値もチェックしておいて欲しいのです。
◇ヘモグロビン値が低い時に現れる兆候
そうはいっても、現場ではしょっちゅう血液検査をしているわけではないでしょうし、リアルタイムでの血液データを得ることはないでしょう。
私が勤務していた場所でもそうでした。
なので、身体所見が重要になってきます。
ヘモグロビン値が低下してくると、一般的には
- 顔色が悪い
- 頭痛
- めまい
- 息切れ
- 動悸
- 疲れやすい
- だるい
- 爪の変形
などの兆候が現れてきます。
「あんまり動きたくないのよね」
といった発言が患者さん、利用者さんから聞かれた時に
「ん?モチベーションの低下か?認知機能の低下か?」
等と疑うのと同時に「ヘモグロビン値の低下」つまり「貧血状態」も疑ってください。
場合によっては医師に進言して血液検査をしてもらうことが必要になるかもしれません。
◇現場でよくあるヘモグロビン値低下
そういった体に現れる兆候の影に病気が潜んでいる場合もありますし、リハビリ開始になった主病因で貧血状態になっていることもあります。
例えば、人工関節置換術のように骨を切除するような手術の場合、術後貧血になることがあります。
高齢者の術後せん妄などは、加齢により血液状態、栄養状態が低下したところに、手術などで失血したことが原因じゃないかと感じます。
実際、私が担当した患者さんで、輸血後にせん妄が改善し、体調も良くなり、リハビリテーションがスムーズに進み始めた人もいました。
酸素が細胞に届かなくなるというのは、リハビリテーションの進行に対して大きな妨げになってしまうのです。
◇ヘモグロビン平衡
体内のヘモグロビン値を一定に保つ仕組みが備わっています。
体にとって鉄は重要な役割を担うからです。
https://emedicine.medscape.com/article/202333-overviewより引用
赤血球の寿命は約120日と言われます。
寿命を迎えた赤血球は分解されますが、鉄は再利用されます。
リサイクルのシステムはありながらも、不足する分は体外から摂取しないといけません。
それが食事でまかなう部分です。
しかし、鉄の吸収障害があると、貧血症状になることがあります。
赤血球の材料が不足するせいですね。
https://emedicine.medscape.com/article/202333-overviewより引用
あまり単純化しすぎるのは良くないかもしれませんが、出血が多いか、鉄吸収が少ないか、もしかしたら両方が貧血状態の原因と考えられます。
鉄の吸収の部分はまだ詳しくは分かっていないことも多いようです。
◇ヘモグロビン値低下の時には?
酸素を細胞に供給し、ミトコンドリア内での代謝活動のために、鉄は非常に重要な役割を担います。
その鉄が不足した状態、つまり貧血状態であることがヘモグロビン値から知り得たとして、安易に「鉄のサプリメント」を飲むことは推奨しません。
サプリメントを使用する前に
鉄が少なくなっている理由は何か?
をはっきりしてから飲んだ方がいいと思います。
過剰鉄は体に悪影響です。
過剰鉄にしないために体に備わったシステムが、細胞を死滅させる可能性についても示唆されています。
- 少ないなら足せばいい
- 多いなら減らせばいい
- それができる薬を飲めばいい
といった安易な対症療法的な発想で問題が起きないならまだいいですが、対症療法はどんどん重なっていく治療法です。
例えば肉を食べることは鉄の供給に貢献します。
高齢者や、ダイエットをする人や、偏食のある人で「肉が苦手」という人は貧血の傾向が見られることがあります。
「肉を食べることができる」サポートをすることが有効かもしれません。
小腸に炎症が見られれば鉄吸収が阻害されるかもしれません。
そうなれば鉄サプリメントを増やしたところで無意味ですよね?
対象者にとってベストな方法が選択できるように、備えておきましょう。
血液状態が改善することは、リハビリテーションの進行を助けてくれることでしょう。
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