今回は久しぶりに症例報告を。
廃用症候群でのリハオーダーの80代女性の患者さん。
入院後から原因不明の上肢痛に悩まされているとのこと。
利き手でもあり、ベッドから起きる際も、なるべく手を
使わないように身体を使い、座位以降も三角巾でつった
かのように身体にべったりくっつけて動かさないように
していました。
RAの既往がありましたが、手指のみで、増悪期ではなく、
炎症値も正常。こわばり、関節痛もなく、
発赤・腫脹も(ー)
運動器そのものの損傷も(ー)
痛みの状態を確認すると、力を入れると肘〜上腕にかけて
筋肉が痛いとのこと。
まずは自動運動で痛みなく動かせる範囲の確認。
手指は良好。肘の屈伸は辛うじて可。
肩の挙上は不可。
腋窩から上肢を全く離さないように頑張っていた
ので、試しに肘屈曲90°で肩の外転を指示。
すると60°程度は可能。
再度肩の屈曲を指示するも、肘から先しか
上がらず。
結局痛みのない範囲での自動運動後にも、
痛みの状態や可動範囲に大きな変化はみられず。
表情もすぐれないため、いちど痛みから離れて
問診がてら世間話に。
すると元々精神的に弱く通院歴があることなど
が聴取され、あまり立ち入った話はしたくない
様子。
なのであれこれ話すより、今日痛みを
減らすためにチャレンジすることの説明と
同意を得ることを中心にしました。
短期目標は、痛みなく動かせる範囲を増やすこと。
痛みの原因となる可能性である炎症所見はみられ
ないこと、痛みを訴えて、上肢を体幹に固定して
いる割に、自動運動の可動範囲が意外とあることを
伝えて、
「もしかすると、痛いことに必要以上に怖がっている」
可能性があるので、「痛くなく動かせる範囲、環境」
をどんどん探していこうという共通の目標を設定
しました。
とはいっても初回介入。
不安な患者さんにいきなりいろいろ動きを指示
しても難しいので、TGAでお伝えしてしている
コンフォータブルタッチでただ触れるところか
らスタート。
まずは、痛みのない手指から。触れても痛くないか
表情をみながら確認。
肘や上腕に触れていくと筋の硬さを感じましたが、
触れられること自体には拒否感はなく、
触れているうちに、痛みの場所が少しずつ限局
されていきました。
ご本人から「その辺」、「もうちょっと上」と痛みの
場所が明確になるにつれ、上肢全体の緊張も落ち着い
てきた印象が見られた(上肢が下がってきた)ので、
座位から臥位に移行。
背臥位で上肢を治療ベッドにつけ、安定があるなかで
「ベッドの素材や抵抗感などを感じながら、絶対に
痛くない範囲でベッド上を上肢全体でゆっくりさすって
ください」と指示。
はじめはベッドの感触もわかりませんでしたが、健側の
上肢で同じことをしてもらい、その感覚を患側でも
感じてみましょうとアドバイスすることで、感じ取れる
ように。
患側上肢が少しダイナミックに動き始めたので、
ここから自動介助で一緒に介入。
共同作業で少しずつ動かしても痛くない範囲を
確認しながら広げることで、私の介入に対する
不安感を減らしていきました。
そのまま最後はチャレンジで、背臥位にて自動介助で
肩挙上90°は可能になったので終了。
その後の起き上がりでは、痛くて引っ込めていた上肢を
しっかり使って床を押し、靴を履く際も、患側上肢
の参加がみられました。
検査としての座位での肩挙上には変化はみられません
でしたが、何気ない動作の中で患側上肢の参加がみられた
ことは大きな収穫で、逆に本人がそこに気がついていない
ので、フィードバックをして終了しました。
今回の介入のポイントは、
「安心・安全」を伝えること。
私は「痛いことをする人ではありません」
「リハビリは辛いものではありません」
「一緒に介入することが、安心感につながり、
痛みのない動きを再現します」
ということを言葉ではなく、
触れることや課題の難易度の
設定などの介入で体感してもらうこと。
ラポール形成を念頭においた介入でした。
帰りは笑顔もあり声量もアップし、
歩行も心なしかリズムが良かったので、
あと数回でスタッフにバトンタッチできそうです。
原因がなんであれ、痛みのある患者さんへの
初回介入は、「必要以外の痛みを出さない」
「不安にさせない」ことが第一選択。
丁寧すぎるぐらいに丁寧に。
はなし言葉も、触れることも。
関係性ができるだけでも痛みの訴えが
激減する人もいるので、今回の例が
参考になれば、試してみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました
国際統合リハビリテーション協会
理学療法士 中嶋 光秀
P .S:コラム内にあるTGAのコンフォータブルタッチについてはTGAオンライントレーニング
でもご紹介しているので、ぜひオンラインコンテンツをご活用ください。
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