「腰痛があるなら、腰を反ってはいけない」は本当ですか?
慢性腰痛に悩まれている患者さん・利用者さんから、こんな発言を聞いたことはありませんか?
「え!腰痛があるとき、その運動していいんですか?」
「ずっと、〇〇はいけないと思っていました」
「〇〇は、しないほうがいいって言われています」
こうした発言には、共通していることがあります。
それは、
「腰痛があるなら、この動きは避けなければいけない」
という認識です。
では、ここで質問です。
先ほどの〇〇には、何が入ると思いますか?
その「〇〇」に入るのは?
ヒントになるかもしれませんので、私がある療法士から聞いた話をご紹介します。
先日、ある療法士から、
「腰痛のあるケースには、〇〇しないように学生に指導していました」
という話を聞きました。
では、〇〇に入る言葉をお答えしましょう。
答えは、
「伸展」
あるいは、
「腰を反ること」
です。
そして、今回ご紹介したいのは、「腰を反らさない」というアドバイスを30年間信じ続けていた患者さんのお話です。
30年間、「腰を反らしてはいけない」と思っていた患者さん
その患者さんは、初診時に医師から、
「腰が痛いときは、曲げていたほうがいい」
「あまり腰を反らないように」
とアドバイスを受けたそうです。
そして、その言葉を30年間ずっと信じ続けていました。
30年間です。
もちろん、腰痛の原因が「伸展を制限していたことだけだった」と単純に考えることはできません。
しかし、このケースから考えたいのは、
「腰痛がある=腰を反らさないほうがいい」
という一律の解釈が、本当に適切なのかということです。
あなたはいかがでしょうか?
臨床で、
「腰痛を訴える人には、腰椎を伸展させないほうがよい」
というような解釈をしている方に出会ったことはありませんか?
その方の経過はいかがでしょうか。
順調に改善していますか?
私の経験では、不必要な「伸展制限」によって、かえって動きの幅を狭めてしまっている方に出会うことがあります。
特に、ぎっくり腰を繰り返している方の中には、腰椎の伸展が十分に行われていないケースもあります。
だからこそ、
「腰痛があるから、この方向には動かさない」
と決めつけるのではなく、その人の症状と動作を観察しながら考える必要があります。
もちろん、すべての人に「伸展」が適応になるわけではありません
ここで、一つ補足しておきます。
言うまでもありませんが、腰痛があるすべての方に伸展運動を勧めればよい、という話ではありません。
重要なのは、
- 仮説を立てる
- アプローチする
- その反応を確認する
- 仮説を検証する
というプロセスです。
その結果として、その方にとって適切な運動方向や負荷量を判断していく。
つまり、今回お伝えしたいのは、
「腰痛を訴えている」という理由だけで、ある方向の運動や姿勢を一律に制限してほしくない
ということです。
医療従事者の「一言」は、患者さんに大きな影響を与える
私たち医療従事者が何気なく発した一言を、患者さん・利用者さんは想像以上に覚えています。
そして、その言葉を「正しい情報」として長期間信じ続けることがあります。
今回ご紹介した患者さんも、初診時に受けたアドバイスを30年間信じ続けていました。
一度、
「腰を反ってはいけない」
と思い込んでしまった方に、
「実は、腰を反っても大丈夫ですよ」
と伝えたとしても、すぐにその言葉を信じられるとは限りません。
なぜなら、その人にとって腰を反ることは、
「痛みが出るかもしれない」
「腰を悪くするかもしれない」
という、恐怖を伴う動作になっているからです。
ここで考えたい「恐怖回避モデル」
これは、慢性疼痛を考えるうえで重要な**恐怖回避モデル(Fear-Avoidance Model)**とも関係します。
「この動きをすると痛くなる」
「この姿勢は腰に悪い」
「腰を反ると再発する」
そう考えることで、その動作を避けるようになります。
そして、動かさなくなることで、さらに「その動作が怖い」という認識が強くなる。
こうした悪循環が、慢性化に関係することがあります。
だからこそ、セラピストには単純に、
「その動作をやめさせる」
だけではないアプローチが求められます。
恐怖回避から抜け出すために、セラピストができること
まずは、その方が何を怖いと感じているのかを理解すること。
そして、痛みがどのような条件で出現するのかを丁寧に観察します。
そのうえで、
「この動きは避けたほうがいいのか?」
「それとも、適切な範囲で続けたほうがいいのか?」
を考えていきます。
さらに、運動の前後で症状や動きがどう変化したのかを、ご本人にも実感していただく。
例えば、
「さっきより動きやすくなりましたね」
「痛みは増えていませんね」
「思っていたより、腰を反らしても大丈夫でしたね」
といった経験を積み重ねることで、少しずつ「動くこと」に対する認識が変わっていくことがあります。
ここでは、**知識だけでなく、患者さん自身の「体験」**が重要になります。
腰椎の機能解剖学や運動学の知識に加えて、
運動療法
疼痛教育
認知行動療法
などの知識・スキルを持っていると、より幅広い対応ができるようになります。
「腰痛=この動きは禁止」にしない
今回の話で一番お伝えしたいことは、とてもシンプルです。
腰痛があるからといって、特定の運動や姿勢を一律に禁止しない。
もちろん、その動作が症状を悪化させるケースもあります。
だからこそ、
「禁止する」のではなく、「なぜ痛むのか」を考える。
そして、
仮説を立て、動いてもらい、その反応を確認し、また仮説を修正する。
この繰り返しが、臨床では大切なのではないでしょうか。
30年間、「腰を反ってはいけない」と信じていた患者さんの話は、そのことを考えるきっかけになるケースだと思います。
患者さん・利用者さんにとって、セラピストの言葉はとても大きな意味を持ちます。
だからこそ、
「この動きはダメです」
と伝える前に、
「本当に、この人にとってダメなのだろうか?」
と一度立ち止まって考えてみる。
それだけでも、明日からの臨床が少し変わるかもしれません。
本日のまとめ
今回のポイントを整理すると、
- 腰痛があるという理由だけで、特定の運動方向を一律に制限しない
- 「腰を反ってはいけない」という認識が、動作への恐怖につながることがある
- その人の症状・動作・反応を観察し、仮説検証を行う
- 患者さん自身に「動いても大丈夫だった」という体験をしてもらう
- 腰椎の機能解剖学・運動学だけでなく、運動療法や認知行動療法などの知識も活用する
慢性腰痛への対応では、**「どの動きをさせるか」だけでなく、「患者さんがその動きをどう捉えているか」**も重要です。
ぜひ明日からの臨床で、一度考えてみてください。
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対話的腰痛アプローチ
Interactive Low back Pain Technology(ILPT)主宰
赤羽秀徳
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