踵からついて歩きましょうの呪縛〜一症例のエピソード〜

杖なしで歩けるけど・・・?

先日お会いした脳血管疾患の患者さん。申し送りを見ると歩行練習がメインで、駆け足の練習もしているとのこと。
初めましてなので、簡単に評価したら運動がメインかな?ぐらいの気持ちで、リハ室にご案内すると独歩は可能
装具はGSデザインを使用していたのでこれなら運動メインかな?と思った矢先、感じた違和感。
なぜか歩行スピードがイマイチ。少し極端に言うと、麻痺側下肢を先行させて「そろりそろり」と歩いている感じ。

立脚相の問題?

さすがに「そろりそろり」と歩いている方に駆け足の練習は初見でできないので、まずは、なぜ「そろりそろり」
となるのかを考えます。そのためにはまずは簡単に筋力と可動域、感覚障害の有無をチェック。若干筋出力は低め
ですが分離運動も可能感覚も問題なし片脚立位は麻痺側が若干ふらつくが保持は可能

歩行の感想を聞くと、「フラフラしそう」でどうしても「そろりそろり」となり、外歩きが不安とのこと。
下肢機能とご本人の感想との乖離を少し感じたので、「フラフラする」と言うキーワードに注目。

体幹機能の評価

端座位になってもらって骨盤を動かそうとするとびくともしない・・・。
特に中間位から後傾位に骨盤を誘導しても全く脊柱が動かない。常にアップライト姿勢に固定
するような筋活動。これが「フラフラする」一要因と考え、骨盤の前後傾の誘導から脊柱の動きを
出すことを目的に介入。
(脊柱の可動性が少ないことで頭が動き、前庭系の刺激が強まるからフラフラするという仮説)

ひとまず骨盤の後傾が出るようになったので、再評価で歩行をしてもらいました。

歩行の再評価

介入後は麻痺側を前にした「そろりそろり」という歩行から、わりとスタスタ歩くように。
結果的には正常歩行パターンに近づいて、ご本人より「歩きやすいです」というコメントを
いただきました。が、同時にこんな質問を受けました。

「この歩き方で大丈夫ですか?」と。

客観的にみても、明らかに歩容も良くなっていますし、リズム・スピードもアップ
ペースが上がっているにも関わらず、歩行中の会話も可能

今の方が歩きにくいですか?と聞くと、「いえ、歩きやすいです」と。
では何が気になっていますか?と聞くと驚きの答えが待っていました。

踵からついて歩かなきゃいけないんですよね?

「入院中、踵からついて歩いてくださいって呪文のように言われてたんです」と。


それを再現するために一生懸命、麻痺側のICで踵を着けるように努力していたとのこと。
つまり、麻痺側を前にしたそろりそろりという歩容は、「踵をつけて歩く」ということを
患者さんなりに再現しようとして作り出した代償動作だったのです。

正常歩行パターンやロッカー機能を再現しようとするあまり、その要素だけを切り取って
歩行の指導をするという、やってしまいがちな悪い例。
せっかく杖なしでも歩けるだけの能力を持ちながら、不必要な代償動作を行っていたせいで
歩行の自由度を妨げていました。

正常歩行パターンも、ロッカー機能も意図的に作り出すものではなく、
条件が揃えば結果的にそうなるというものです。
患者さんの不利益にならないよう、自分が何を指導していて、患者さんはどんな応答
をしているのか?をしっかり再評価する必要がありますね。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師 理学療法士 中嶋 光秀

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