大胸筋の硬さや短縮に対して、毎日のようにモビライゼーションを施したり、上肢を操作してストレッチを行っていました。
(大きな声では言えませんが)私がまだ若手の頃、10年を超える作業療法士も毎回リハの序盤に大胸筋を緩めるアプローチをしていました。
それを見学していた私も、その先輩と同じようにアプローチしていたんです。
毎日毎日…
硬いところをせっせと緩めては、緩んだことに満足して、また次の日硬くなっている。
それをまた今日も緩める…
足りなかった視点
この時私に決定的に足りなかったのは、「何故硬くなる?」という分析を掘り下げられなかったこと。
- 大胸筋は何故緊張するのか?
- 上肢が水平外転出来ないくらい短縮するのは何故?
そんな分析をする視点が足りませんでした。
- 屈筋痙性によって大胸筋が緊張しやすいから
- 姿勢が前屈みで肩甲帯が外転して大胸筋は短縮肢位だから
このくらいの分析はもちろんしていました。
しかし、この分析からどんなアプローチをしていたかという、同じように大胸筋の硬さにダイレクトにアプローチしていたんです。
何故大胸筋は硬くなる必要があったのか?
人体を学んでいくと、不思議なことに気づかされます。
それは「カラダは、生きる上で余計なことはしない」ということです。
大胸筋が硬くなるのは、それ相応の理由があってそうなっています。
簡単に言えば、硬くならざるを得ないということ。
今回は、この視点から大胸筋へのアプローチを考えていきます。
姿勢の問題
先ほど書いた通り、「姿勢が前屈みで肩甲帯が外転して大胸筋は短縮肢位だから」と言うのは学生でも考える分析です。
もちろん間違いではないですが、掘り下げが足りません。
「何故前屈みなのか?」
高齢だから?筋力が低下しているから?脊柱が硬くなっているから?
ここから考えていかなければならないはずです。
人は元々類人猿と言う、いわゆるサルから進化してきました。
地上に下りて、道具を使うようになったサルは、外敵から身を守るため、より遠くを見渡せるように背筋を伸ばしていったのが、今の人間の姿勢の始まりだという説があります。
骨の数や構造は大きくは変化しておらず、椎間板の厚みが出たことで、脊柱はS字カーブを描きながら、重力に対して垂直の姿勢を維持できるようになりました。
つまり、脊柱を垂直に保てなければ、体は前に曲がるわけです。
脊柱を垂直に保つ機能は、脊柱起立筋が担っています。
特に重要なのが多裂筋です。
この筋が機能的に働いていなければ、脊柱は前屈みになり、大胸筋は短縮肢位にならざるを得ません。
では多裂筋を働かせるには?
普通に背筋の筋トレすれば伸びるでしょうか?
重力に対して垂直の姿勢を維持する、そのために多裂筋を機能させる、そのために必要なことが、椎間関節の可動性です。
「こっからが今日の大事な部分です!」
椎間関節内に存在する感覚受容器は、その動きを常にモニターし、それを制御するための信号を効果器(筋)へ送り続ける機能があります。
この機能が働かなくなると、多裂筋は機能しなくなり、代わりに腸肋筋であったり、最長筋といった比較的表層の姿勢制御にはあまり向かない筋肉が動員されるようになります。
結果、姿勢制御に向かない表層の筋(速筋繊維)は、疲弊し硬くなり、姿勢を維持できなくなり前屈みにならざるをえない。
これが、姿勢からくる大胸筋の硬さの一つのリーズニングです。
この流れに対して、大胸筋を緩めるだけでその姿勢の問題まで解決するでしょうか?
考えられないと思います。
まして、大胸筋が硬くなる原因は他にも多様にあります。
これからセラピストに必要なのは、一つの事象に対してリーズニング出来る能力です。
肩へのアプローチに対して、先ずは体幹との繋がりを考えることが重要です。
硬くなることが悪いのではなく、何故硬くなる必要があったのかを考える思考が大切です。
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