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安定していても慢性心不全なのは変わりない
心疾患を抱える患者さんに関わる際、すでに安定状態(慢性心不全)にあり、自覚症状がなかったり乏しい方に出会うことがよくあります。特に既往歴として心疾患がありかつ安定している場合、主病名への介入に頭が向きがちです。しかし、「慢性心不全」であることに変わりはなく、常に心不全の増悪リスクを頭に入れておかなければなりません。
「徐脈で息切れがない」方への運動処方は??
今回、「心拍数40台で息切れしない」患者さんにどれぐらい運動処方して良いか?というご質問をいただいたので考えていきたいと思います。結論から言うと「この情報だけでは具体的なアドバイスができない」ということになってしまいますが、どう考えていけばいいのか?というところは共有できるかと思います。細い症状についてはわかりませんが、この情報から想像できるのは、徐脈ではあるが血圧は保たれている可能性が高い、ということ。血圧は全身に血流を送るために必要な圧力(つまり全身に酸素を送るための圧力)なので、息切れがないという状況なら、なんとか心臓のポンプ機能の代償が効いている状態であると想像します。
血圧の式から考える
そこで、前回のコラムにもあげたように、「血圧の式」から考えてみましょう。
血圧は末梢血管抵抗×心拍出量で表されます。心拍出量は一回心拍出量×心拍数で表されます。対象の患者さんは心拍数が40台と徐脈傾向なので「血圧を保つため」には①末梢血管抵抗を高くする、もしくは②一回心拍出量を上げて心拍出量を増やす(心臓のポンプに頑張ってもらう)、この2つの方法があります。まずは①末梢血管抵抗について。動脈硬化等で末梢血管抵抗が元々高いなら、心拍出量を上げなくても、血圧を保てます。これはすでに心疾患を抱えている方なら、ベースに動脈硬化を持ち合わせている可能性は高いです。次に②一回心拍出量についてです。ここは純粋にポンプ機能そのものの問題なので、血液を押し出す力を増やすか(後負荷を高める)、心臓に多くの血液を蓄える(前負荷を高める)かのどちらかが必要です。すでに末梢血管抵抗は高めのはずなので、後負荷はこれ以上増やしにくいと思います(心筋負荷増加のため)。可能性があるとすれば、血液循環量を多くして前負荷を高めることですが結果的に浮腫が出現する可能性があります。
そう考えると、結構綱渡りな状況です。「徐脈で息切れがない」という状態は「心拍数は増えない、心拍出量も増やしにくい、でも末梢血管抵抗が高いので血圧を保てていて、その結果息切れがない」というだけで、心臓の代償機転がいつでも破錠する可能性があります。今回ご質問の患者さんの場合、運動で全身に血液を送る必要が増えた状況になった場合、血圧を上げる要素に乏しいということです。
(心臓の代償機転) https://www.kango-roo.com/learning/7213/
心不全患者さんへの運動処方の基本
心不全患者さんへの運動処方の基本はどんな運動で心不全症状が出るか?ということです。急性・慢性心不全診療ガイドラインでも、NYHA心機能分類とMETsを用いいてある程度の指標を示しています。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf(P31参照)
また、運動が過負荷だったかどうか?の指標は、翌日への疲労感の持ち越し、同一運動でのボルグスケール・心拍数の上昇、浮腫の出現や体重の増加、血圧上昇といった経過を追うことが重要になっていきます。
(心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインP71参照)
https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2012_nohara_h.pdf
この患者さんにはこの運動という明確な答えはありませんし、今回の考察は片手落ちは否めません。(薬や疾患の状況があればより詳細な考察ができると思います)。「運動に対するリスク」がどのような機序ではらんでいるか?をおさえた上で、実際の運動処方で症状悪化の兆しがないか?という日々のアセスメントが重要になってくると思います。まずは日常生活レベルで心不全症状が増加しないかどうかからスタートし、そこを基準に、METsを目安に運動を処方していけば良いのではないでしょうか?。
日々の臨床は手探りのことの方が多いです。でも、暗中模索で手探りするより、ガイドライン等を用いて「患者さんに何が起こっているのか?」を知ることで、リスクに備えることができます。
上記を参考に臨床に挑んていただけると幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師 理学療法士 中嶋 光秀