リスク管理はなぜ必要?
心疾患や腎疾患など、運動療法のリスク管理が必要な疾患は数多くあります。
運動の禁忌事項や運動中の中止基準、運動前に知っておくべき血液データなど、リスク管理として押さえておく必要がある情報はたくさんあります。
ではこのリスク管理、なんのために必要なのでしょうか?
禁忌事項に関しては、「運動すると病状が悪化するので運動しないでください」ということ。
ここは絶対に守らなければならない項目ですので、リスク管理の第一選択となります。
次に運動中止基準です。これには「運動量を減らす、もしくは休憩して回復したら運動再開OK」という項目から、「この数値、症状が出たら即運動をやめてください」というものまで若干の幅があります。どちらにせよ、こちらも運動による病状の悪化を防ぐための指標になります。
リスクの範囲内の運動は運動療法として最適か?
ではここで質問です。運動中止基準で示されている数値や症状がでない安全な範囲で運動を続けていれば、患者さんの機能回復に繋がるのでしょうか?
これに関して、一つの論文があります。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2778112
この論文のテーマは「快適なペースでの低強度の在宅歩行運動が、虚血性下肢症状を誘発する高強度の在宅歩行運動と非運動制御との比較で、PAD患者の歩行能力を大幅に改善するかどうかを判断すること。」です。
要するに症状が出ない低強度の運動と、リスク管理下に行った高強度の運動を比較して、どちらが歩行能力が改善したか?というものです。結果からみると「症状を誘発しながらも高強度で運動した群の歩行機能が向上した」ということです。
過負荷の法則を考えれば当然の結果ではあるのですが、この結果の重要なところは、高強度運動群が良い結果が出たことではなく、「症状の出ない快適な低負荷運動群には歩行機能の改善がみられなかった」ということです。
なんのためのリスク管理か?
「症状の出ない範囲での低強度の運動」はリスク管理という視点でいえば推奨されます。しかし、運動機能向上という視点だと、「効果のない運動を継続している」という可能性が含まれています。
私たちの仕事は患者さんの運動機能を高めることです。そこで求められているのは、安全で効率的に、かつ最短で効果を示すことです。そのためには、リスク管理をしながら、どの程度までの運動が可能なのか?を常に今可能な最大運動強度を判断し続けなければなりません。
リスクの範囲内での運動ばかり継続して、最大能力を再評価するのを忘れていませんでしょうか?
安全性と運動機能の向上を常に秤にかけながら介入するためにセラピストが存在しています。
「リスクの範囲内での運動」≠「理想の運動強度」。
私たちがリスク管理をしながら介入する意味を再度考えてみましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
リハカレ認定講師
理学療法士 中嶋 光秀