肩関節のリハビリテーションにおいて、肩甲上腕リズムを知らないセラピストはいないでしょう。
肩甲上腕リズムとは、肩関節挙上したさいの肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の共同運動を表したもので、古典的には外転30°から一定のリズムが続くとされ、その比は約 2:1 になるといわれています。(McClure PW, JShoulder Elbow Surg, 2001)
ですが、臨床においてこの肩甲上腕リズムをどのように活かすか、正直良くわからないというセラピストもいるかもしれません。
今回は、肩関節の動きの概念「肩甲上腕リズム」において、その動きの構成要素を踏まえたアプローチについてまとめていきたいと思います。
上肢屈曲運動の関節運動
上肢を挙上させる際に動く関節は、正直無数にあります。
というのは、例えば立位で右上肢を挙上した際に、左の足関節は微妙に背屈します。
この考え方は、筋膜の繋がりから説明することが出来るのですが、今回は一般的な上肢の動きに関係する関節についてまとめます。
- 肩甲上腕関節
- 肩甲胸郭関節
- 肩鎖関節
- 胸鎖関節
これにもう少し付け加えるなら
- 胸肋関節
- 肋椎関節
- 椎間関節
といったところでしょう。
上肢の運動には、これらの関節の可動性が欠かせません。
そして、本題の肩甲上腕リズムについて。
肩甲上腕リズムの運動学
一般的には肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動きの比と言われていますが、次の写真を見てみましょう。
(参照 筋骨格系のキネシオロジー,原著者:Donald A.Neumann,監訳者:嶋田智明 ,有馬慶美,医歯薬出版株式会社 以下同)
どうでしょうか?
実は肩甲胸郭関節の60°上方回旋の動きは、肩鎖関節の上方回旋30°と胸鎖関節の挙上30°の合計された結果なんです。(最新版では肩鎖関節35°、胸鎖関節25°となっています)
このことからわかる通り、徒手的なアプローチでいくら肩甲上腕関節や肩甲骨の動きを引き出しても、この肩鎖関節と胸鎖関節の可動性が無ければ、上肢の動きは改善しないということです。
もう1回言います。
肩鎖関節と胸鎖関節へアプローチしなければ、上肢へのアプローチは不十分。
肩鎖関節の運動学
- 上方回旋と下方回旋(約30°)
- 水平面および矢状面での回旋調整
胸鎖関節の運動学
- 挙上(約45°)と下制(約10°)
- 前方牽引と後退(15~30°)
- 鎖骨の軸の(長軸)回旋(20~35°)
胸鎖関節へのアプローチ
今回は胸鎖関節へのアプローチを一つお伝えします。
胸鎖関節は鞍関節という形状を取っており、多方への動きを許す形状になっていますが、安定性という面で多くの結合組織によって覆われています。
それゆえ、不動による結合組織の硬化に伴う可動性の低下は、上述の通り上肢全体の動きに制限をもたらします。
アプローチ手順(関節面への圧刺激)
- 鎖骨の近位端から胸骨に向かって圧をかけます。関節面の形状を丁寧に触診し、関節面に沿って垂直に圧をかけます。もちろん痛みの出ない範囲で行います。
- 圧を維持したまま、バイブレーションを加え、結合組織に対して刺激を加えます。あくまでも刺激を加えることが目的で、無理矢理動かしたり伸ばしたりはしません。
- 関節内に緩みを感じられてきたら、圧をある程度維持したままアクティブでの運動を行ってもらいます。その際、胸鎖関節の動きに合わせて圧の方向を調整します。
このアプローチは、関節包内の感覚受容器に刺激を加えることで、関節包内運動を促通する効果が期待できます。
上肢を挙上させる際、胸鎖関節の動きが引き出せてなければ、全可動域に渡って肩甲上腕関節への負荷が掛かり、特に降ろしていく際にインピンジメントを起こす可能性があるといわれているんです。
実際の治療場面はコチラ
それでは最後まで読んでいただけて感謝です。
画像参照 筋骨格系のキネシオロジー,原著者:Donald A.Neumann,監訳者:嶋田智明 ,有馬慶美,医歯薬出版株式会社
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