当協会顧問医師である習田先生にインタビューを行った。慢性疼痛領域の第一人者であり、日本リハビリテーション医学会認定医でもある先生のビジョンとは。リハビリテーションに精通されている先生だからこそ聞くことができた、大変興味深い内容である。

Profile

慢性疼痛に関する臨床と学術に取り組む慢性疼痛領域の第一人者。企業の健康経営サポートの監修や医師向けの研修会を年に50回程度行い、また製薬会社の慢性疼痛と運動の重要性を訴える資材の協力を多数行うなど、慢性疼痛科学の周知を精力的に行っている。

【学歴・職歴】

平成13年 防衛医科大学校 卒業
平成13年 防衛医科大学校付属病院
平成15年 自衛隊阪神病院 整形外科 医員
平成17年 第六次イラク復興支援群 人道復興支援活動 支援群医官
平成22年 ハイチ国際緊急医療援助隊(JDR)派遣医官
平成25年 自衛隊阪神病院 リハビリテーション科部長
平成25年 自衛隊阪神病院 整形外科部長兼リハビリテーション科部長兼務
平成26年 寝屋川ひかり病院 整形外科 部長
平成29年5月 寝屋川ひかり病院 副院長
令和2年4月 一般財団法人神戸マリナーズ厚生会ポートアイランド病院 副院長

【資格等】

  • 日本整形外科学会  認定専門医
  • 日本リハビリテーション医学会認定医
  • 日本整形外科学会  認定スポーツ医
  • 日本スポーツ協会  公認スポーツドクター
  • 日本整形外科学会  認定リウマチ医
  • 日本整形外科学会  認定運動リハビリ医
  • 日本骨粗鬆症学会
  • 日本骨代謝学会

慢性疼痛とリハビリテーション、そして情動との関係とは

インタビュアー森本(以後森本):先生、改めて就任いただきありがとうございます。IAIRとしても色々やりたいことがある中で、顧問の先生、ドクターの先生が参画頂けるっていうのは我々にとって非常に大きいことなのですが、医療の業界においてリハビリテーションの役割みたいなところで、改めて先生の見解みたいなことを教えていただいてよろしいですか?

顧問習田先生(以後習田先生):ありがとうございます。特にこれまで私は慢性疼痛に関わることが非常に多かったのですが、慢性疼痛において効果のあるものを期待していました。つまり即効性のあること自体が我々(医師)にとっては必要な部分かなと考えているところがありまして、それが薬物療法だったり、注射療法だったり、手術療法だったり。「先生痛いからすぐ痛みを取れる治療法はないですか?」と患者様から求められるケースが多かったので、そちらに流れているケースが多かったと思います。しかし、慢性疼痛というのは実は即効性を期待する、あるいは期待できる、そういうエリアではないことというのが、長年臨床を行なっていくことによって感じたんですよね。で、その中でやはり痛みを取れること自体が身体を動かすことによって、失われた機能を回復することによって初めて慢性疼痛が改善される、とようやく考えるに至って、そこにはやはりリハビリテーションという要素が圧倒的に大きな割合を占めているのだと。逆に言うと、リハビリテーションを効率的に進める為に、医師としてどういった治療法が本当に必要なのかなと考えるようになりました。考え方が簡単に言うと180度変わったと言うことですね。

森本:我々いわゆる「リハビリ職種」と呼ばれる人たちからすると、もう一点気になるところとしては、運動療法っていう観点もすごく大事だなと思いつつ、リハビリ職種として関われる部分となると、我々IAIRとしては「ひとをみる」という視点もすごく大事にしています。リハビリテーションの未来という点でいきますと、予防的な観点も含めて運動療法以外にも慢性疼痛の部分であれば、例えば情動の部分であったりですとか、生物心理社会的な部分もすごく重要になってくると思うんですが、そういう点においてリハビリテーションというのは40分60分かかる所まで時間単位で関われるという点がメリットですよね。という意味も込めてリハビリテーションの未来のところで、疼痛とのリンクする点だと思うんですが、習田先生はどのように考えてますでしょうか。

習田先生:おっしゃる通りですね。 僕が一番リハビリテーションという分野において、魅力的に感じるのは、まず患者さんと接する時間が長いというところですね。われわれ医師のコンタクトポイントはやっぱり点でしかありません。物理的な感覚刺激だけで痛みが生じているのであれば、今回改正された慢性疼痛の概念・定義がもしも変わってなかったとすれば、患者さんと全体的に長く関わる必要性はない、というふうに考えることも正当化されます。しかしながら、情動という部分。これが痛みにおいて大きな要素を占めているということが、慢性疼痛の病態として分かってきました。そうなると医療従事者として患者さんとのコンタクトポイントが点であるということは、これは非常にマイナスポイントであって、それは医師においては埋め合わせができない部分なんですよね。ですからリハビリ職種の皆さんは、機能回復とともに患者さんと時間をかけて向き合って接することによって、その情動の部分までを最も理解し、情報収集もして、そしてそれに対するアプローチもできる職種になっていくべきであると僕は思うんですよ。ですから、そこが最も大きくリハビリ職種として、捉えられるべきところに変わっていくのは間違いないなと思いますね。

森本:慢性疼痛と多職種連携みたいな部分というのが、リハビリテーション領域だけではなくて職域を越えて結構重要になってくるっていうことですよね、そうなりますと。

習田先生:おっしゃる通りですね。特に情動というところが、これから重要なテーマになってくると考えています。つまり情動がクローズアップされてくると従来の痛みをとる即効性、徐痛というテーマ、という薬物療法・注射療法・手術療法ではなくて、やはりその情動にアプローチするための、どういった職種の方々がどれくらい関われるかというところが大きく関与する。ただその部分において、やはり有利不利じゃないですけども、向き不向きいうのはやっぱりどの職種にもあって、理学療法あるいはリハビリテーション職種の方で捉えられる情動の部分は何か。あるいはその他の多職種連携で関わって来られる方が、情動においてはどういうところを得意としているのか、あるいは適している職種なのか、これを見分けていく必要があります。一つの職種がすべての情報を理解できるわけではない、というところをディスカッションテーマにして進めていくことが今後大事かなと思っています。

医療業界におけるIPRS(疼痛多職種連携研究会)の役割について

森本:IPRSというのはまさにそういう部分を進めていくところ、ですね。

【IPRSってなに?】→ https://iprs.site/

習田先生:そうですね、IPRSにも疼痛っていうワードが入っていますけれども この疼痛の中身の大きな要素はやはり情動である、ということですね。情動の理解を多職種で広げていけば、これは慢性疼痛理解に最も近づけるステップですし、今まで行われていなかった、新たな治療の取り組みかなと。つまり、今まで多職種で痛みを解決する、となったら、VASの例えば10で言うところの8の痛みをどう6にするかと、そういう議論が多職種連携で痛みを解決するっていうテーマになっていたんですけれども、僕の考えはもう2020年にガイドラインが変わって、そのVASを下げるっていうのは、多職種連携の最終的な目的ではなくて、感覚だけの刺激だけじゃない情動の部分に対する痛みの入力だったり、我々の痛みの解釈だったり、それぞれに応じて適切な治療法をどう行っていくかということが多職種連携で最も求められるところかなと。その中にこのIPRSっていうのは、その痛みに関しての特に情動という部分をしっかり考える意味では大事な組織なんじゃないかなと思いますね。

森本:ありがとうございます。逆に、医療業界における疼痛の理解の現状というのはどれぐらいなんだろう、というはいかがでしょうか。

習田先生:医療業界の痛みはやっぱりまだまだ痛み自体を客観的な数値で捉えるという傾向ですね。そしてもう一つは感覚刺激によって受ける電気信号に変換される、そういう解釈でしか為されていないというところになっていますから、現状だと情動というのはおざなりになっているわけなので、慢性疼痛患者さんがまだまだ増えている現状に繋がっていますね。

森本:なるほど。ではやはりIPRSでの学びは医療業界にとっても非常に重要な役割になっていきそうですね。

社会におけるIAIRの役割について

森本:ちょっとガラッと話が変わるのですが。IAIRの行っている健康増進領域について、医師やリハビリテーション職種の活躍の舞台は今後増えていくと思いますでしょうか?

習田先生:ありがとうございます。これに関しては、今疾患を持っている方が対象、というだけではなくて、今までは病気になった人、けがをした人、そういった方だけを対象にしていれば良かったのかもしれないですけど、慢性疼痛という概念が書きかえられることによって、痛みを起こす最初のステージ、あるいはより重症化する前に情動に対してのアプローチをしていく、という考え方ができるようになってくることを考えると、我々の対象となる方っていうのはもう未病、予防、そういった方々も含まれるわけなんで、皆さんが活躍する範囲は今まで以上に、広がり過ぎるぐらい広がっていくんじゃないかなと思いますけどね(笑)。

森本:(笑)ありがとうございます!では、最後に先生として、IAIRに期待することですとか、あるいはIAIRとしてやりたいこと、IPRSも含めてですね、なにかあれば。

習田先生:IAIR自体、やはりプロフェッショナル集団だというふうに僕は考えています。ですからIAIRの中で皆さんが個々人でその専門性を深掘りしていくというのは大事。ただ他の協会と何が違うのか、という差別化をこれから図っていきたいです、個人的に、協会内で縦の深掘りをする協会団体はたくさんある。しかしながら横展開、ですよね。横のつながりができる組織だったり協会というのは、僕はまだまだ少ないじゃないかなと思いますね。ですから、IAIRの各メンバーにお話したいのは常に深掘りは当然なんですけど、横の俯瞰的なシェアを持って、横展開をしていただいて、その横展開は何かというと、まさに今のキーワードで言うと情動っていうテーマを共通言語にしながら、多職種でその共通言語に対しての患者さんの改善度をはかっていけるような組織に発展していければ、明らかに他の団体と差別化が図れるんじゃないかなと思います。

森本:ありがとうございます。またIAIRとしてしっかりできることを模索して行きたいと思います。

習田先生:皆さんの専門的知識に付加価値を付ける、レバレッジをかけるためには、もちろんこの深掘りの深さを深くしていくということもされておられると思うんですけど、それを行いながらも横の情動の展開を行っていけるプロフェッショナル集団っていうことをさらに出していければと。それが例えば情動というのは心とかそういうものではなくて、もう少し我々の考える内容を深堀、もちろんしていかなきゃいけないんですけど、その視点がある。だから多職種でやらないといけないし、多職種でやっている、というメッセージを出したいなと思いますよね。そしたら参画されてこられる方々もたくさんいらっしゃるでしょうし、やっぱり規模、ですよね、規模。大きくなればなるほど、我々得られるものもどんどん大きくなるわけで、小さな集団ではなくて、しかも専門家集団が、大きくなるっていうことのメリット以外にも、いろいろなメンバーが入ってくることによって生まれてくる付加価値、あるいは考え方も変わり得るんですよね。やっぱりそこは必要だと思うんですよ。それが今の展開としては望んでいる方向ですね。

森本:社会としても、インクルーシブな世の中になっていく中で、我々もそういうところにしっかりと参入していきたいですね。

習田先生:そうですね。疼痛は疼痛で、ということで今まで一括りにされていた範囲があるとすれば、インクルーシブですとかダイバーシティとか、様々な方が入ることに我々は多様性というものも前提にして、いろいろな方の意見をいただきながら慢性疼痛だとか、リハビリテーションの向上に繋げたい、というメッセージが出せれば、すごく今必要とされる医療につながりそうですよね。

森本:ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。

習田先生:同じ専門家集団だけで一括りになってしまっていることから脱却している組織である、ということも一つメッセージとしていいんではないかと。

森本:それはもっと言ってもいいかもしれないですね。

習田先生:今度さらに取り組みを増やしていくことによって、活動がさらに活発になっていくんじゃないですかね。その時にやっぱりSDGsの観点など、例えばどこの部分を我々特に強調してますみたいなことを行うことで、対外的なイメージからしても、企業さんからのイメージからしても、さらに変わると思うんです。

森本:確かにそうですね。社会貢献を、道筋を、もっと広げていきたいですね。ぜひよろしくお願いします。

習田先生:よろしくお願いします。ありがとうございました。

インタビューを終えて

習田先生のインタビューからは新しい医療の形や、職種の多様性、そして可能性など様々な気づきを得ることができた。そのために共通になるであろう「情動」の理解を含め、まだまだ学ぶことの多さにも気づくことができた。医療従事者としてupdateを継続し、社会に貢献する、という気持ちを忘れることなくこれからも進んでいくことが重要である。