辞める時に起きる波紋。その影響は?

辞める時に起きる波紋。その影響は?【5年目を過ぎた療法士の君へ】(47)

後輩「科長、訊いていいですか?」
科長「ん?どうしたんだい?」
後輩「あ~その、先輩が辞めるって言ってるわけですけど……」
科長「そうだねぇ……」
後輩「今年は本気っぽいですけど……」
科長「うん……」
後輩「引きとめなかったんですか?」
科長「え……あぁ、引きとめはしたよ」
後輩「それでも、先輩の意思は変わらなかった?」
科長「変わらないようだね」
後輩「ようだね、って本気で引きとめたんですか!」
科長「……そうだね。でも、最後は本人が決める事だからね」
後輩「……そうですか……もし……」
科長「うん」
後輩「もし、自分も辞めると言ったら、どうしますか?」
科長「困るね!」
後輩「いや、そうでしょうけど……」

 

と、先輩が辞める宣言をしてから約8週間。

後輩君も色々考え始めているようです。

人事の動きは、この数回にわたって話をしてきたメンタルヘルスにも関わる話題。

各人の視点で先輩の辞める宣言騒動の影響をみていきましょう。

あえてテーマとするなら「マルチファクターとナラティブ」です。

 

 

1年目:新人視点「私はこの職場に就職してよかったのかな?」

働く意義

新人さんにしてみれば、新人研修も終わって、業務も一通り教えられて、ようやくこれから!

そんなタイミングで中堅どころの先輩が辞めてしまう。とても不安になっている状態です。

理由を知っても、本当にそうなのかな? とどこか引っかかりを残すでしょう。

 

残念ながら、このような出来事はよくある事です。

 

新入職員が増えれば、業務的には落ち着きます。辞める意思のある人はタイミングを狙っていますからね。

この機会を逃す手はありません。

 

とはいえ、それはあくまで状況から見たあなたの視点だけかもしれませんね。

本当のところはわからないものです。

 

むしろ、期限があるなら、その間にコミュニケーションを取っていきましょう。

辞める人から、知識や技術、経験やエピソードなど、引き出せるだけ引き出してしまいましょう。

悩んでも仕方ありません。目の前のクライエントさんの為にも、十二分に引き継ぎをして、心配事を残させず気持ちよく送り出しましょう。

 

 

7年目:後輩視点「必要とされていないのだろうか?」

必要とされる

科長に食ってかかる……程ではないにせよ、疑問を口にし、自分も辞める宣言をしてしまった後輩君。

この職場で働いていても、必要とされていないのではないかと不安になったようです。

科長とのやりとりの裏では、「引きとめてもらえないのではないか?」、「その程度の存在なのか?」、「科長の対応が軽すぎないか?」などなど、不安に不安を重ねています。

このままだと、不安は疑念や疑惑になり、不信につながるでしょう。

ともすれば、攻撃的な態度に変わる事もあります。

 

でも、ちょっと待ってください。

 

まずは深呼吸して今の状況を見ていきましょう。

「必要とされる」って、一体どんな状況でしょう?

シビアな物言いをすれば、感情的になる前に「職場で何が求められているのか」を確認しましょう。

 

組織ごとに理念や方針などがあります。

義務を果たさずに権利を主張しても行き違いしか起きないでしょう。

 

……と、四角四面な話をしても面白くないですね。

 

彼は、なぜ科長に質問したのでしょう?

一つは不安になっている自分に気がついていないから。

過去の先輩の様子とは違った印象を持った……先輩が焦っていると感じ取ったが故に、つられて自分の感情も揺れはじめたのでしょう。

 

不安になった?と指摘されて、初めて不安になっていたかもしれない、と振り返ることになるでしょう。

もしかすると、引きとめて欲しいという感情は、彼の過去の体験の中から生まれた解釈に基づいたものかもしれません。

まずは、一度落ち着いて今を見つめてみましょう。

 

 

13年目:先輩視点「私は、甘えていたかもしれない」

希望

以前、精神科でOTがしたい、アクティビティがしたい……と彼女は話していました。

その発言自体は事実でした。ですが、後輩君が勘違いした思いは別なところにあります。

 

彼女は職場には何の不満もありませんでした。

雰囲気もよく、働きやすく、研修会等の自由度もある。

 

ただ、その環境は、新人さんや後輩君、科長らのさりげないフォローがあってのこと。

このまま、守られた環境のなかでほのぼのと仕事をしてていいのだろうか……

 

そんな事を考えていたようです。

 

10年目を過ぎる頃には、その10年間を振り返ることもあるでしょう。

療法士として、どんな成果を出してきたのか。

初心にかえった時、そもそも何をしたかったのかを思い出す。

毎日の業務に追われつつ、その日1日したことが、どんな未来、または自分の過去(実績)を作っているのか、現在のあり方を考えてしまいます。

 

後輩君の「必要とされている」とも似ていますが、「どんな貢献ができているのか?」に悩む時期です。

社会貢献……などと大きな枠ではなく、シンプルに自分の行なっている仕事が、所属している組織にどんな影響を与えているのか?

なので、貢献です。

 

法人に所属していると全く気づかない事の一つに、法人に守られているという事実があります。

近年起業する療法士が増えておりますが、法人に守られない生き方を選択するそのエネルギーには素晴らしいものがあります。

 

だからといって、法人に守られるのが悪いわけではありません。

ただ「給料分は働いた」と思うのか、「給料分またはそれ以上の働きをしたのか」と思うのでは全く違うということです。

彼女の場合は、別な法人に所属する道を模索しています。

少なくとも、今の同僚たちに助けられた形ではなく、新たにチャレンジをすることができる環境に飛び込みたいのでしょう。

 

 

20年目:科長視点「管理職のジレンマにどう向き合うのか?」

ジレンマ

管理職にとって、新たな出会いと別れは必ず経験するものです。

良好で円満なものもあれば、終わりの見えない主張の平行線だってあります。

ですが、彼は「最後は本人の意思で決めることだから」というスタンスを崩しません。

 

彼は経験から、管理職に相談した時点で「本人の意思は固まっている」と判断する傾向があります。

後輩君の「本気で引きとめたのか?」という問いに、やや間があありました。

「本気で辞めたいと言っている人が引きとめて欲しいの?」

と疑問に思ったからです。

 

これまで、突発的に彼の先輩らが集団離職し、少ない人数で現場を維持した経験があります。

それに比べれば、事前に話をとおしてくれるだけまだマシ、と考えます。

 

でも、「本気で引きとめたのか?」の「本気」には疑問が残ります。

管理職であり、組織を維持する手前、引き止める理由は多々あります。

これまで年1回ずつそんな訴えをおこしてくる先輩さんには感謝だってしています。

 

他の面々が辞めていっても彼女だけは残り、新人さんに指導できるまで後輩君を育てました。

管理職としては手放すのは惜しい、でも一療法士としては外の世界に解き放ってもいいと考えています。

 

20年目を過ぎて、今更他で何かをする元気のない彼にとって、13年目の先輩さんにはまだまだチャンスがある。

だったらチャレンジした方がいいんじゃないか……結婚だってしてないし、とはセクハラになるから言わないけど。

 

などと巣立ちを全力で応援しようモードになっているようですね。

管理職として、療法士として……常に悩みがつきまとうことでしょう。

それらも含め、科長として考えていることは、常に皆と共有できる関係性がカギになるでしょう。

 

 

まとめ

さて、今回はテーマを「マルチファクターとナラティブ」としました。

「明確な診断名に準ずる多因子がかかわるもの」を多因子――マルチファクターとIAIRでは定義しています。

毎回、リハ科メンバーそれぞれの視点で一つのテーマについて話しをしていますが、今回の気づきは「彼ら自身も対話が不足している事」です。

 

神の目で皆さんはここまで読んでくれました。

だからこそ、皆さんは様々な意見や、君ってそんな考えだったの?とツッコミを入れたくなったことでしょう。

ですが、彼らはまだ対話が足りていない事に気付いていません。

 

さて、みなさんはいかがでしょうか?

現場の仲間たちと、対話(ナラティブ)は足りていますか?

 

参考文献

IAIR学術誌Vol.1 https://iairjapan.jp/academicjournal/aj_ir_vol01

 

 

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Saito Makoto

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精神科作業療法に従事する。そのなか、臨床実習指導と院内改善指導に携わり、統合的な視点で医療の質向上をマネジメントする取組みを10年にわたり行ってきた。 IAIRに参加することで、病ではなく人をみる視点を手に入れ、同時に組織も人と同じく、病を抱えていることに気づく。共に育む「共育」をテーマに、療法士一人一人が組織に関わるための多角的な視点を持てるよう、人財育成とマネジメントに関する発信を行っている。
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