肩甲骨の運動異常「Scapular dyskinesis」

肩の痛みや可動域制限に悩まされている人は多く、特に中高年において発症しやすいと言われる「肩関節周囲炎」は、仕事や家事など日常生活活動を大きく阻害し、痛みが強い場合には不眠といった生活自体にも影響します。

インピンジメント、腱板損傷などの症状を併発していることも多く、多方向からの評価とアプローチが求められます。

 

そういった症状を持つ人の多くに、肩甲骨の運動異常(Scapular dyskinesis)が認められることが、多くの論文によって報告されています。

 

Scapular Summit 2013

2013年、British Journal of Sports Medicine主催の第二回国際カンファレンスがアメリカのレキシントンで開催されました。

この会議は通称「Scapular Summit」と呼ばれるほど、肩甲骨に特化したカンファレンスで、そのメインテーマが「Scapular dyskinesis」でした。

 

このカンファレンスで得られたコンセンサス(合意)

  1. Scapular dyskinesisは、ほとんどの肩疾患に高い割合で存在する。
  2. 肩のインピンジメント症候群は、Scapular dyskinesisによって起因する。
  3. Scapular dyskinesisは、肩関節の運動機能を悪化させる潜在的な要因である。
  4. 肩疾患の治療は、Scapular dyskinesisを評価することにより、より効果的になる。
  5. Scapular dyskinesisの信頼性の高い評価方法が確立されつつある。
  6. Scapular dyskinesisの治療は、より包括的なリハビリテーションが効果的である。

(参照:Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the ‘scapular summit’,https://bjsm.bmj.com/content/47/14/877

 

5の「確立されつつある」と提言されている通り、後にScapular dyskinesisの評価方法については、新たな手法が考案されています。

(参照:Comprehensive classification test of scapular dyskinesis: A reliability study, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25435131

 

今回は、ベースとなったKiblerらによって考案されたScapular dyskinesisの4分類についてと、その後考案された手法を踏まえて見ていきます。

 

Scapular dyskinesisとは

Scapular dyskinesisをシンプルに説明すると、「肩甲骨が正常に動いていない状態」と言えます。

それに加えて、静的な位置異常も含むと言われており、無症候の状態でも起こりうることが規定されています。

つまり、Scapular dyskinesisは診断名や症候群ではなく、肩の評価治療を考えるためのコンセプトとして認識されています。

 

2002年、Kiblerらは視覚的に肩甲骨の運動異常を評価し、Scapular dyskinesisを4つに分類する方法を考案しました。

Kiblerらの4分類には、Scapular dyskinesisを細かく分類することで、問題点の抽出や治療のリーズニングに繋げられるという利点があります。

 

しかし、前述通り新たな手法が考案されているのは、肩甲骨の運動異常を視診のみで分類することはなかなか難しく、検査者によって差が生まれてしまったことで、この評価の信頼性は低い結果になったことによります。

Huangらは、Kiblerらの4分類をベースとして新たな評価方法を考案しました。

 

Huang らの包括的分類評価

Huangらは、視診だけでは肩甲骨の運動異常が捉えきれない(評価者のスキルに依存する)として、触診を加える手法を取り入れました。

また、4分類に新たにミックスタイプを追加して、運動異常が重複した場合にはミックスタイプとして判定できるようにしました。

  • タイプⅠ 肩甲骨の下角の突出
  • タイプⅡ 肩甲骨の内側縁の突出
  • タイプⅢ 肩甲骨の上縁の早期の挙上、過度の上方回旋
  • タイプⅣ 正常(左右対称)
  • ミックスタイプ

(画像参照:Scapular Dyskinesis: Part II. A New Diagnostic Modality – Three-Dimensional Wing CT)

 

さらに、被検者に重りを付加することで、肩甲骨の運動異常を検出しやすくした点も、信頼性が高まる要因となったと言われています。

(参照:Comprehensive classification test of scapular dyskinesis: A reliability study, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25435131

 

Scapular dyskinesis参照動画

 

評価の手順

  1. 被検者は、重り(1-2kg)を持ち、ゆっくり上肢を挙上させ、ゆっくり下降させます。
  2. 重りに関しては、被検者が不快感や痛みがともなわない程度です。
  3. 検査者は、その際に肩甲骨の動きを視診と触診をあわせて行います。

引用:Huang TS, 2015より

触診は、検査者の手の橈側を両側の肩甲骨の内側縁にあて、2指〜4指を肩甲棘におきます。被検者の挙上および下降時の肩甲骨の動きを触知します。

重要なのは、これらの肩甲骨の運動異常が上肢の挙上時ではなく、下降時に生じやすいという点で、下降時は肩甲骨周囲筋の遠心性収縮による制御が求められるため、挙上時に比べて肩甲骨の運動異常を認められやすいと言われています。

 

 

Scapular dyskinesisへのアプローチ

3つのタイプでは、主たる原因となる筋肉があります。

  • 小胸筋と上腕二頭筋短頭が過剰な筋緊張
  • 僧帽筋上部と下部のforce coupleのインバランス
  • 前鋸筋の不活性

これらに対してアプローチを行っています。

 

HuangらによってKiblerらが考案した評価はブラッシュアップをされたのですが、結局のところ、問題を見つけられても正確なアプローチが出来なければ、何の意味もありません。

正確な技術を身に付け、目の前の患者に成果を提供することが、我々療法士の役割です。

患者さんは「正確な評価を知りたいわけではない」ことを忘れないようにしなければなりません。

 

技術を修得されたい方には以下をお勧めします。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

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一般社団法人 国際統合リハビリテーション協会

理事 九州地区 理学療法士

福留 良尚

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福留 良尚

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国際統合リハビリテーション協会常任理事 IAIR九州専任講師 理学療法士 コンディショニングサロン仁愛クリニカルルーム代表 3児の父 
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