「高齢者の転倒を防ぐ!」神経系リハビリプログラム

「平成27年版 高齢社会白書(全体版)」によると、高齢者が要介護状態となる主な原因は、脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による虚弱(フレイル)と続き、「転倒・骨折」は全体の12.2%を占め、4番目の多さです。

転倒の原因には、環境的な問題の外的要因と、本人の身体的な問題による内的要因に分けられます。

 

外的要因

  • 段差
  • 滑りやすいフローリング
  • 手すりのない廊下
  • 浴室 など

内的要因

  • 病気や障害
  • 身体機能の低下
  • 薬の副作用 など

リハビリ職種は、もちろん外的な要因にも考慮して、必要性があれば改修の提案や環境セッティングを行う必要がありますが、本日は内的要因に対する実際のプログラムに焦点を絞ってお伝えしていきます。

 

◆高齢者のバランス機能

リハビリテーションの現場では、バランスの評価を行う際に、簡便なFRT(functional reach test)や片脚立位テストなどが行われます。

 

FRT:被検者を自然立位において上肢をできる限り前方へ移動(リーチ)させ、その到達距離(FR 距離)を測定するもの

支持基底面より重心が前方に逸脱した際に、足趾屈曲筋による支持作用が重要となることから、足趾の機能を含めたバランスを評価する際にFRT使われることが多い。

片脚立位テスト:その名の通り、片足で立つ際の安定性や保持時間を見るテスト。小さなBOS(支持基底面)内で安定してCOM(質量中心)を保持できる能力を見るテストとして認知されている。

 

しかし、FRTに関してはこのような報告もあります。

高齢者の転倒に関する分析では FRT が使用されることが多いが、信頼性、妥当性が高い測定方法を用いてはじめて、有効に評価することができる。本研究の自然立位方法では、FRT とバランス能力との間に中程度の関連性が認められたが、開始姿勢を厳密に規定した規定の方法のFRTは動的バランス能力の評価法として、より有効であることが示された。

代俊・渡部和彦:Functional Reach Test の測定方法改善の試み:信頼性、客観性及び妥当性の検討

また、片脚立位テストにおいても、重心を片側に寄せる移行期と、片脚を持ち上げて保持をする時には、違う機能が用いられるという見解¹⁾もあります。

 

これらの検査項目の特徴は、静的な場面で行われている点であり、高齢者の転倒原因となる要素を網羅することは難しいかもしれません。

  • 反応スピード(敏捷性)
  • 足底の触覚感受性
  • 足部底背屈筋の切り替え

このような神経系の機能も評価することで、より転倒を予防出来るプログラム立案に繋がると考えられます。

高齢者の転倒リスク軽減には、足底からの感覚情報増大や足部・足関節のストレッチ、足趾筋力ためのエクササイズが有効となる可能性がある²⁾という報告もあります。

 

◆神経系の機能

単純な筋力トレーニングやストレッチ、バランス訓練では大きな効果が得られないことを臨床場面で体験してきました。

その理由は、上述の通り神経系の活動に視点を向けていなかったからです。

 

神経系と聞くと末梢神経を思い浮かべるかもしれませんが、脊髄や脳にも着目しなければなりません。

特に脳にはマッピングという機能があります。

マッピングとは、脳機能局在つまり脳の各部位がどのような働きをしているかを、あたかも脳を地図に見立てたかのように “マッピング” し、その結果から図などを作成することである(Wikipedia)

そしてこのマッピングは、非常に個別的な機能で、例えばプロのスポーツ選手と一般人とでは、同じ動作をする時であっても脳のどの部分をどのくらい活動させるかは変わってきます。

 

リハビリの臨床においても、この個別性の判断が大きく成果に関わってくるのです。

 

転倒をしやすい高齢者の場合、足底からの感覚情報(入力系)が若年者より少ないのは言うまでもありませんが、同じ年齢であってもその機能は千差万別です。

足部底背屈の切り替え(出力系)においても、「思ったほど体が上手く動かない」みたいに、脳は覚えているけど末梢の機能が追い付かないといった障害もあります。

 

◆神経系入力系へのアプローチ

これは一言でいえば柔軟性ですが、足部(足底)においても表層から深層と、深さに合わせてアプローチをしなければなりません。

 

表層(足底腱膜・短趾屈筋・小趾外転筋など)

これらの筋肉や膜組織をその繊維の方向になぞるようにスライディングさせて見てください。強い刺激ではなく、伸びてるな、引っ張られてるなと感じる程度でOKです。

短趾屈筋

小趾外転筋

深層(足根骨・中足骨)

これらは骨ですが、その骨と骨の間には結合組織(tissue)が存在しています。この動きが悪くなる、不動の状態になると、足底からの感覚情報は知覚されにくくなります。1個1個の足根骨、中足骨をその関節面の方向に沿ってスライディングさせてください。

足根骨・中足骨

◆出力系のアプローチ

これは、足関節の底背屈自動運動を必要とします。方法は、患者の側方から脛骨と腓骨を挟むように持ち、皮膚ではなく骨を捻るようにして深層にスライディングを加えた状態で固定。そのまま底背屈の自動運動を行って頂くものです。

下腿骨間膜という組織に刺激を加えつつ、前脛骨筋や腓腹筋を収縮させることで、結合組織間の動きを引き出し、結果として神経系の出力の改善が見込まれます。

下腿骨間膜

前脛骨筋

腓腹筋

端的な筋力トレーニングやバランス訓練では変化が感じられないという方は、是非試してみてください。

そして、この徒手的なアプローチ後に運動療法を行うことで、これまで使えていなかった入力・出力系の働きが変わり、脳が「ここも使える」と判断することで、マッピングにも変化を与えることが可能です。

 

療法士1人1人の関りが、高齢者を転倒から守り、この高齢化社会を支えます。

IAIRは、これからの社会に必要な療法士の育成を行っております。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

◆参考

  1. 「片脚立位テストの再考」北海道大学大学院保健科学研究院 萬井太規: http://www.pt-hokkaido.jp/magma/details/vol37.htmlより
  2. Foot and Ankle Characteristics Associated With Impaired Balance and Functional Ability in Older People. Journal of Gerontology:MEDICAL SCIENCES Hylton B.Mentz, Meg E.Morris, and Stephen R.Lord https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=16424286より

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一般社団法人 国際統合リハビリテーション協会

理事 九州地区 理学療法士

福留 良尚

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福留 良尚

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国際統合リハビリテーション協会常任理事 IAIR九州専任講師 理学療法士 コンディショニングサロン仁愛クリニカルルーム代表 3児の父 
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