捻じ曲がる疼痛と対策

運動器疾患の大多数、そして脳血管疾患においても疼痛の問題は、リハビリテーションを進める上で大きな阻害因子となります。

「先生、今日キツイからリハビリ休みます」

この言葉の裏には、患者さんが痛みを抱えているケースも多いでしょう。

 

我々療法士は、ADLやパフォーマンスを目標のレベルにまで到達出来るようサポートするのが1つの職務です。

であるからには、動いて頂かなくてはなりません。

ベッドの上でゆっくり休んでいても、筋力は低下するし、可動域が改善することはあり得ないでしょう。

 

疼痛とは、私たちが職務を全うするうえで、切っても切り離せない課題です。

 

もっと言えば、慢性的な痛みを有して外来リハビリを継続している患者の多くのケースにおいて、疼痛の感覚は捻じ曲がっています。

この“捻じ曲がっている”とはどのような状態か?

本日は疼痛に対するリハビリテーションモデルを考えていきたいと思います。

 

 

ニューロマトリックス理論

疼痛や脳の機能について考える上で、ゲートコントロール理論は聞いたことがあると思います。

この理論を発表したのがロナルド・メルザック(Ronald Melzack)ですが、彼は1990年に「ニューロマトリックス理論」というものを発表しました。

 

この理論において疼痛とは

“脳におけるbody-self neuromatrixと呼ばれる広域に分布する神経ネットワークによってつくりだされる特徴的な神経サインパターンの神経信号によって産出される複数の次元からなる経験である”(Melzack et al., Pain Pract 5 (2005) 85-94. All rights reserved to World Institute of Pain. Image taken from: truemovement.net.)

というように説明しています。

 

簡単に言えば、疼痛とは脳の中で生み出されていて、組織的な損傷が無くても痛みを感じてしまう事がある、ということです。

 

このシステムの構成要素は以下の四つと説明されています。

  1. body-self neuromatrix
  2. 神経サインを伝える周期性の産出と統合
  3. 神経サインを気づきの流れに変換する神経のハブ(中枢)
  4. Action neuromatrix(意識・無意識の運動を引き起こす)の起動

このことからも分かるように、慢性的な疼痛における介入は、単純な侵害受容性のものと考えるのには問題があり、様々な側面からの検証が不可欠であるということです。

 

 

生物心理社会的モデル

生物心理社会学的モデルとは、人の医学的な疾患、この場合は慢性の運動器疼痛(筋・骨格系の痛み)を理解するのに、生物学的因子と一緒に心理学的および社会的因子を含まなければならないということを提唱した概念的なモデルのことです。

(Turk DC, Monarch ES. Biopsychosocial perspective on chronic pain. in Turk DC, Gatchel RJ, editors. Psychological approaches to pain management: a practitioner’s handbook. New York: Guilford; 2002.)

 

このモデルでは、疼痛を独立した心理社会的要素と身体的要素とにはっきりと区別できない精神生理学的行動パターンの相互作用として見ると最もよく分かる、というように説明しています。

つまり、先程のメルザックの理論と重なってきます。

 

疼痛とは、脳内における相互作用によって作り出される「個人的な感覚である」ということです。

 

「火事場の馬鹿力」という言葉があります。

家が火事で燃えている最中、一つでも多く物を外に運び出そうと母親が、男数人でも持ち上がらないようなタンスを担いだ話から、この言葉が生まれたと言われています。

 

どう考えても、筋断裂を起こしています。

 

ですが、その最中は脳がその損傷による侵害受容器からの上行性情報伝達をコントロールしていたのがわかります。

「火事」という環境(社会)において、「一つでも多くの物を」という心理が、その場の損傷(生物)を感じない状態にしたわけです。

疼痛とは、非常に個人的な感覚であることが良く分かります。

 

 

「痛み」の経済損失は約1兆9千億円

少子高齢化で労働人口が減少する中、労働者1人当りの生産性はこれまで以上に重要とされるようになってきました。

一般企業、特に大企業の中では「健康経営」という概念が広がり始めていて、それを推進することが社会から求められています。

 

医療費と生産性でみた場合の疾病コストは「肩こり・腰痛」がトップで、このような慢性疼痛による損失は1週間平均で4.6時間に及ぶという試算があります。

そして、時間ベースの経済損失は、1兆9,530億円にのぼるという報告もあるのです。

(Shinsuke Inoue, Fumio Kobayashi.Chronic Pain in the Japanese Community–Prevalence, Characteristics and Impact on Quality of Life:PloS one. 2015;10(6);e0129262. doi: 10.1371/journal.pone.0129262.)

 

IAIRでは、以前からこの企業における労働者の慢性疼痛に着目し、それに対するケアや適切な対処法を知って頂くための講演活動を行ってきました。

 

また、一般の人が行う健康増進活動の中で、最もポピュラーなウォーキングに着目した活動も行っております。

 

 

療法士の社会貢献

療法士の活躍の場が変わってきているのを肌で感じるようになってきました。

もちろん、医療介護保険を使ったリハビリテーションの提供が、我々の最重要課題であることは言うまでもありません。

その上で、健康増進活動や未病といわれる状態の人へも、我々の医学的なリソースを提案していく必要があります。

 

先程述べたように、少子高齢化は待った無しです。

このまま手をこまねいて“見ているだけ”では、よろしくないと考えます。

IAIRは、広く社会に必要とされる療法士を育成する臨床教育を行っています。

 

それでは最後まで読んでいただけてありがとうございます。

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一般社団法人 国際統合リハビリテーション協会

理事 理学療法士 福留良尚

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福留 良尚

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国際統合リハビリテーション協会常任理事 IAIR九州専任講師 理学療法士 コンディショニングサロン仁愛クリニカルルーム代表 3児の父 
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