脳損傷の回復過程におけるリハビリ戦略

From.IAIR 福留良尚

 

脳卒中に対するリハビリテーションは、これまで経験則に基づいたものであることが定説となっており、Evidence Based Medicineに発展しにくいと言われている(Franceschini, Eur J Phys Rehabil Med, 2012)。

しかし、脳卒中後の自然回復をリハビリにより効果的に促進するためには、神経生理学的なコンセプトに基づいた介入が必要になることが分かってきている(Dobkin et al., Lancet Neurol, 2004)。

 

神経可塑性とは

脳卒中後の運動麻痺の回復には、神経可塑性の機能が必須となる。

神経可塑性とは、神経系は外界の刺激などによって常に機能的、構造的な変化を起こしており、この性質を一般に“可塑性”と呼んでいる。神経の可塑性は大きく3つに分けられる。1つ目は脳が発生していく時や発達していく段階にみられる可塑性。2つ目は老化や障害を受けた時などに神経の機能単位が消失するが、それが補填・回復されていく場合。3つ目は記憶や学習などの高次の神経機能が営まれるための基盤となっているシナプスの可塑性(synaptic plasticity)である。 (今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

 

脳卒中後のリハビリテーションにおいて重要になるのは、2つ目と3つ目。この2つは、発症後の時期に応じて使い分ける必要があるが、今回は損傷後の自然回復過程における可塑性についてまとめていく。

 

回復機序1 ペナンブラ

神経細胞の回復機序には、大まかに分けて4つある。

1つ目は、「ペナンブラ」といわれる、脳の血流改善による神経細胞の回復である。

この回復機序は、血流障害によって死滅した神経細胞の周りに、他の場所から栄養を分けてもらいながら生き延びる神経細胞が集積し、一定期間経過するとその部分の神経細胞の機能が回復することを指す。

薬剤による血流の回復によって引き起こされる現象であるため、我々療法士が直接関与する訳ではないが、急性期、数時間から数週間の回復にはこの機能が貢献していることを知っておくべきである。

 

ダイアスキーシス

2つ目は「ダイアスキーシス」といわれる、ペアとなっている遠くの脳の機能が復活する現象を指す。

脳は一つ一つが独立して働いているわけではなく、複雑にお互いがネットワークを築いて連絡を取り合っているため、損傷によって死滅した神経細胞と繋がっていた損傷を受けていないはずの部分も機能低下を起こす。

この機能回復は、数日から数カ月続くと言われており、急性期から回復期において貢献していることが分かる。

 

アンマスキング

3つ目は「アンマスキング」と言われる、通常状態では抑制されている経路が、脳損傷によって抑制が解放され、代償性経路として機能し始めることを指す。

この機能は発症直後から始まると言われており、超急性期からのリハビリ介入の必要性は、単に廃用を予防するためのものではなく、アンマスキングの機能を最大限に発揮して、代償性経路の形成を促すことにもある。

 

早期からのリハ介入の根拠の一つとして考えられているのが、critical time windowという概念である。

critical time windowとは、早期のリハ介入により運動野の可塑性再組織化を最大限に引き出すことが可能な時期のことを指している (Biernaskie et al., J Neurosci, 2001; Biernaskie et al., J Neurosci, 2004; Nudo, J Neurophysiol, 1996)。

 

側芽形成

4つ目が「側芽形成」である。

端的に言えば、同じ動きをする際に、違う伝達経路を使って信号を送る、迂回路の形成である。

麻痺側を使用する頻度と量に依存する回復機能であり、回復期リハ病棟で行われる積極的な介入よりも前の期間にアプローチがどれだけ出来ていたかが、ここでは重要なポイントとなってくる。

この回復は数週間から人によっては数カ月続くこともあるが、前述の通り急性期の介入方法に左右される。

 

運動療法戦略

運動麻痺改善のための戦略は、Sharmaらが3つ挙げている(Sharma et al., Dev Psychobiol, 2012)

  1. 麻痺側への体性感覚フィードバック
  2. 運動イメージ・運動観察に伴う運動予測型の脳活動
  3. 運動発現における皮質脊髄路経由の発火

 

これらを時期に合わせて使い分けることで、脳の自然回復を最大限に引き出すとともに、可塑的変化を提供することがリハビリテーションでは可能になる。

これに加えて患者の個別性や環境、急性期のリスク管理など、考慮すべき点はまだまだ多い。

急性期からの神経学的な回復メカニズムを理解しておくことで、回復期においても運動麻痺の回復に戦略的にアプローチすることは、十分に可能である。

 

脳卒中包括的リハビリテーションアプローチ>>>http://ccrajapan.jp/

 

それでは最後まで読んでいただけて感謝です。

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一般社団法人 国際統合リハビリテーション協会

理事 理学療法士 福留良尚

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福留 良尚

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国際統合リハビリテーション協会常任理事 IAIR九州専任講師 理学療法士 コンディショニングサロン仁愛クリニカルルーム代表 3児の父 
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