療法士は利他的なのか?

療法士の行動は利他的なのか?【5年目を過ぎた療法士の君へ】(15)

前回、助け合いをテーマにお話しました。

なぜ、リハ科の中から、他者を排斥する行為が減らないのか?

と、疑問に思ったからです。

近年の研究では、遺伝子に基づく現在の進化論では人間の利他行為に見られる重要な特徴をうまく説明できないことが示されたそうです。

文化的な進化と、遺伝子と文化の共進化の両方が重要だという考えにシフトし始めているようです。

面白いですね。損得を超えた何かがあるのでしょう。

2020年代を生きる療法士の在り方、今日も一緒に考えていきましょう。

(*IAIR会員の皆さんは、前回のコラムの解説動画が「IAIR-Cafe」視聴できます。あわせてご視聴ください。)

 

今回の参考

「The Samaritan Paradox」(SCIENTIFIC AMERICAN MIND December 2004)
「無私は最高の戦略」(日経サイエンス2012年11月号)
チューリヒ大学実証経済研究所所長 E.フェール/生物学者・ジャーナリスト S.-V.レニンガー。

 

今回のポイント

ざっくり言うと……

  • 利他行動は遺伝子的要素だけではなく文化的要素との組み合わせで生まれる。
  • 利他行動の強弱により、利己的か公益性があるか分かれる。
  • 公益性を目的に持つ組織は利他的な行動により壮大なプロジェクトを実現する可能性を持つ。

 

遺伝子だけでは語れない?

遺伝子

遺伝子で決まってるから、ヒトは他人を排斥しながら組織の能力を高めているんだ!

って結論だったら、面白くも、悲惨な話と思ってました。

以前は僕も遺伝子の話が大好きでした。家族や親族、血縁関係というものに価値を感じていたものです。かつては。まあ、それは別な話になるので、裏話(会員向けOnLine放送)などでしましょうか。

今回の論文でも、冒頭から有名な言葉がいくつも引用されていたんです。

 

18世紀初頭 「蜂の寓話」 英国医師哲学者 マンデヴィル(Bernard Mandevill)
「すべての公共の利益を根底で支えているのは実は美徳ではなく個人のあくとくだ」と主張。

1859年 「種の起源」ダーウィン(Charles Darwin)
「食物と生殖、生息地の追求に徹しない生物はみな、自分の特質を子孫に伝える機会を損なう」と仮定。

1976年 「利己的な遺伝子」英国進化生物学者 ドーキンス(Richard Dawkins)
「私たちはサバイバルマシンである。遺伝子として知られる利己的な分子を保存するために盲目的にプログラムされた乗り物ロボットなのだ」

といった感じで、利他は偽装エゴイズムの一形態と言う話になってました。

善行を通じて善意と公平さの評判を確立する事が総じて有益であるという想定があるそうです。結果その人の印象が良くなり、長期的には益を得る可能性が高くなる、と。

遺伝子の話だけから療法士を語るにはまだ足りませんね。

 

震災後、赤の他人を助ける為に自分の命をかける人もいる!

利他行為

先の進化の話からすると、自己犠牲は進化生物学の法則から外れているそうです。

“家族の役に立たず、互恵的援助も評判狙いの援助も将来の益を約束しないなら、無私の行為によって得られるものは何もない。それどころか、資源や健康、お金の面で高くついてしまう”

とありました。

それでも、利他行為で動く人は確かに存在しますよね。

 

懲罰ゲームの結果から見る協力

懲罰ゲーム

ここでフェールらは「懲罰ゲーム」をした実験結果を持ってきてました。

結論だけ言ってしまえば、「公益性」の高い目的に向かう際、不公正な振る舞いに対して懲罰を加える事が以降の運営の協力増進に繋がったそうです。

ここだけ切り取ると、リハ科内を公益性がある方向に向かおうとすれば、懲罰あるいは懲戒のような行為がより大きなプロジェクトの実現に繋がると言い換えられそうですね。

「公益性」が前提ですが。

ここで、パワハラやらイジメと感じてしまう人がいるって事は、罰する側の人間に「公益性」の主張が見られず、「自身の生存」を主張する個人の利己的な側面を垣間見たからかもしれませんね。

 

利他行為には種類がある?

弱い利他行為

社会生物学者は、先の組織内に起きた自分の利益にならないのに公益性の為に懲罰行為をする事に「強い利他行為(真の利他行為)」と呼んでいるそうです。

対して、見返りを期待した「弱い利他行為(身内重視の偽の利他行為)」と区別して使っているそうです。

なるほど! どうやらリハ科で起きている利他行為は「弱い利他行為」かもしれませんね。

ちなみに、強い利他行為の発揮された固定されたメンバーの集団は他の集団よりも高いパフォーマンスを発揮するという研究結果が示されていた。

 

ガタガタ書いてきたけど、これって……

公益性

あれ?と今更気づいたのですが、「組織を作ったら組織の目的に応じたルールができて、そのルールに合わないヒトは排斥される」って、今の社会の構造上、普通の事じゃない?

前回のコラムでも出てきた「いい加減な奴」を今回は「タダ乗りする利己的な者」と表現されていました。どちらも懲罰を受ける者たち……一言で言えばエゴイストですね。

一つの目的に向かおうとすると、それが「公益性」の高いものであればあるほど、エゴイストがその組織内に入り込んで、増えようとする行為を、強い利他行動でもって、排斥し始めるワケです。

例えコストがかかっても、追い出す事が組織の目指す「公益性」に繋がるなら、と強い利他行動をする人は無私の行動をし始めるんですね。

 

療法士の行動は利他的なのか?

療法士は利他的

さて、フェールらによると、ヒトはどうやら遺伝的要素として真の利他行動を促進できるようです。

それは遺伝的要因だけではなく、文化的要因との組み合わせによって利他的傾向が次の世代に保存されていくと言います。

たしかに、遺伝だけの話なら組織における傾向が無視されているようで、眉唾な気分になっていたところです。

ですが、「文化的要因との組み合わせ」「次世代に保存」となると、そのリハ科が持つ文化的要因を紐解く事で、なぜパワハラのような発言が許されるのか、イジメのように感じる発言が横行するのかが、見えて来そうです。

先にも話題にしたように、リハ科長の行為によります。

療法士個人が考える「公益性」や「利他行為」の強弱と、組織の持つ「公益性」やその組織に所属するメンバーの「利他行為」の強弱が、合わないと不幸が起きるのでしょう。

 

療法士になったからには、「公益性」を持たない人はいないでしょう。

養成校で学ぶ過程で養われもします。生存を考えた利己的な目的から次第に変わってくる方もいたでしょう。

今、改めて「なぜ療法士になろうとしたのか」をそれぞれ振り返るといいのでしょう。

そこには必ず「人のため」という「公益性」が根底にある……と期待しています。

 

まとめると……

  • 利他行動は遺伝子的要素だけではなく文化的要素との組み合わせで生まれる。
  • 利他行動の強弱により、利己的か公益性があるか分かれる。
  • 公益性を目的に持つ組織は利他的な行動により壮大なプロジェクトを実現する可能性を持つ。

です。

2020年代を生きる療法士として、組織ぐるみで「公益性」について考えてみることをお勧めします。

 

副会長齋藤信
IAIR理事 齋藤 信

 

IAIRは「公益性」を醸成することができるのか?

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齋藤 信

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精神科作業療法に従事する。そのなか、臨床実習指導と院内改善指導に携わり、統合的な視点で医療の質向上をマネジメントする取組みを10年にわたり行ってきた。 IAIRに参加することで、病ではなく人をみる視点を手に入れ、同時に組織も人と同じく、病を抱えていることに気づく。共に育む「共育」をテーマに、療法士一人一人が組織に関わるための多角的な視点を持てるよう、人財育成とマネジメントに関する発信を行っている。
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