脳卒中の筋力低下について再考

From.IAIR 福留良尚

 

脳卒中後の筋力の問題について、以前から多くの研究がなされており、現在筋力トレーニングについては「推奨される」という見解で一致している。

特に急性期からの積極的な介入に関しては、「廃用症候群を予防し、早期のADL向上と社会復帰を図るために、強く勧められる(グレードA)」とある。(脳卒中ガイドライン2009)

 

しかしながら、一方でこのような見解を持つ療法士も多いのではないか?

 

「筋力増強運動によって脳卒中患者の痙縮が強まり、結果として運動パターンの悪化やバランスの問題を助長してしまう」

事実、過去に脳卒中を専門とする理学療法士に対して行われたアンケート調査によると、20.8%の理学療法士が麻痺側に対する筋力増強運動に対して否定的な回答を示した。

(田梢,内山靖:「痙縮筋に対する筋力増強運動」 についての理学療法士の認識.理学療法科学.2007;22(4): 515-520)

 

これらを踏まえて、脳卒中患者の筋力増強訓練における効果的な介入方法を今回は検証していく。

 

 

随意性とは

筋力の問題を考える前に、随意性との違いについて明確にしておく必要がある。

随意性の低下とは、運動麻痺という言葉にも置き換えられ、脳が損傷されることによって意識的に手足が動かしにくくなる状態を指す。

 

脳卒中のリハビリテーションでは、この運動麻痺の回復に主眼を置いているのは周知の事実であり、筋力低下とは、運動麻痺によって動かなくなってしまった筋が萎縮すること、または麻痺を伴わない側であっても、ADLや動作が制限されることで萎縮してしまう状態のことと捉えることが出来る。

端的な言葉に置き換えれば、廃用症候群であり、冒頭にあったとおり、リハビリテーションの早期介入は、この廃用症候群を予防することも重要な目的である。

 

運動麻痺と廃用症候群は別の症状であることが分かる。

 

 

運動麻痺の回復

運動麻痺の回復には3段階ある。

  1. 急性期の残存経路の活性化(Corticospinal excitability)による回復
  2. 回復期の皮質間ネットワークの再組織化(reorganization)による回復
  3. 再組織化されたネットワークを効率的に使えるようになる

 

急性期の回復メカニズムは、残存している皮質脊髄路を刺激しその興奮性を高めることで、麻痺の回復を促進する時期となる。そしてその興奮性は急性期から急速に減衰して3 カ月までには消失する。

回復期のメカニズムは、この時期は皮質間の抑制が解除される(disinhibition)ことにより生じる回復メカニズムが機能する。代替え出力としての皮質ネットワークの再組織化が構築され、残存している皮質脊髄路の機能効率を最大限に引き出す中枢指令として機能する。このメカニズムは6 カ月までには消失する。

再構築された新しい代替えのネットワークにおいてそのシナプス伝達が効率化されることにより出力のネットワークが一層強化され、そして確立される時期であると結論できる。

(原寛美:急性期から開始する脳卒中リハビリテーションの理論と実際.臨床神経2011;51:1059-1062)

 

筋力低下が始まる時期

次に、脳卒中患者の筋力低下が始まるのはいつからなのかについて。

阿部らの研究によると、片麻痺患者の麻痺側及び非麻痺側の両下肢に、発症後2~3病日と非常に早期から筋肉の厚みの減少が認められたとされている。

(参考:阿部千恵:急性期脳卒中片麻痺患者における筋厚の経時的変化.理学療法学,第43巻第2号,136~142貢,2016年)

 

臨床的にも分かる通り、脳卒中患者の筋力低下は発症後間もなく始まっていることが分かる。

その反面、運動麻痺や感覚障害に伴う座位保持能力などの低下によって、非麻痺側が過剰に使用され、麻痺側の痙縮が助長される場面を見ることは少なくない。

つまり、リハビリテーションにおいては、急性期から運動麻痺の回復と筋力低下の問題両方にアプローチを構築する必要がある、ということにならざるを得ない。

 

 

急性期での介入ポイント

では、急性期から介入するにあたって、筋力と運動麻痺の両側面へ効果的にアプローチするにはどうすれば良いか。

筆者の経験も交えて考察すると、「姿勢」の安定化が必須であると考えられる。

 

脳卒中患者は、運動麻痺とは別に姿勢の安定化にも問題が生じることは、神経生理学な側面からも明らかである。

網様体脊髄路系に代表される姿勢制御を司る経路は、急性期の脳損傷によって機能低下を引き起こすが、特に網様体脊髄路や前庭脊髄路は、同側への投射を行っており、急性期から積極的に賦活していくべきであることは、前述の運動麻痺回復の3段階からも分かる。

 

つまり、非損傷脳の姿勢制御機能を最大限に機能させることで、姿勢が安定し、それによって積極的な筋力増強訓練への移行も可能になるということである。

 

運動麻痺の回復に主眼を置くことは、もちろん重要なリハビリテーションの役割ではあるが、過剰なトレーニングを「動かない・感覚がない」側に強いると、非麻痺側での代償動作が助長され、結果痙縮の悪化に繋がることは冒頭のアンケートの結果からも分かる通りである。

対して、姿勢制御機能の改善を急性期から率先していれば、過剰な代償動作や痙縮の悪化をコントロールすることが可能となる。

 

CCRAでは、この「姿勢制御機能」に着目したアプローチの実際をお伝えしている。脳卒中リハビリテーションにおいて、この視点の技術を修得されたい方は、基礎コースを一度ご覧になって頂きたい。

http://ccrajapan.jp/seminor/basic/

 

それでは最後まで読んでいただけてありがとうございます。

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一般社団法人 国際統合リハビリテーション協会

理事 九州地区 理学療法士

福留 良尚

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福留 良尚

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