他の記事でも触れたとおり、日本国内で糖尿病に関係する患者層は増えてきています。
関連記事:「カルテの既往歴に「糖尿病」と書いてあった場合の検査結果解釈【リハビリに役立つ血液検査データの見方6】」
そうなってくると
糖尿病の既往がある人でリハビリテーションの対象となるケース
の確率も上がってきます。
ただし、糖尿病に対してのリハビリテーションというのは、あまりメジャーではないような印象を受けています。
実際には、食事管理として「管理栄養士」が、運動指導として「健康運動指導士(あるいはトレーナーと呼ばれる人)」が関わることが多いようです。
それは、糖尿病の診断を受けた状態だけで、大きな機能制限は自覚されにくいからじゃないかと考えます。
例えば、下腿の切断にまで発展してしまったケースはリハビリテーションの対象になるでしょう。
しかし、それはかなりコントロール不良な最終段階を迎えたケースです。
これだけ増えてきている糖尿病。。。
リハビリを担当するケースの既往歴になっている経験が増えていませんか?
糖尿病の病態について整理してみましょう。
インスリン
糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなり、腎臓で糖の再吸収が起こらず尿中に排出されてしまっている状態であることから、この名称で呼ばれています。
なぜ血糖値が高くなるのでしょうか?
本来、体には血糖値が上がった時に分泌されるホルモンがあります。
それがインスリンです。
インスリンの合成
インスリンはアミノ酸から作られるペプチド構造のホルモンです。
膵臓β細胞で合成されます。
水溶性のホルモンであるため、細胞膜の脂質構造部分を通過できず、細胞膜の受容体に結合します。
インスリンの働き
「インスリンの働きは?」と尋ねると、「血糖値のコントロール」と返答されることがあります。
インスリンは血糖値を高める作用はありませんので「血糖値を下げる」という方が妥当と思われます。
血糖値が下がるのは「結果」であるわけですが、なんの結果で血糖値が下がるのでしょうか?
インスリンは何をしているのでしょうか?
インスリンは、細胞(骨格筋や脂肪細胞など)への「グルコースの取り込み促進」と、肝臓を中心とした「糖新生の抑制」、という作用によって血糖値を低下させていきます。
(*ちなみに、血糖値の低下が進むと、グルカゴンや成長ホルモン、糖質コルチコイド、甲状腺ホルモン、副腎髄質ホルモンなどの作用で血糖値が上昇していきます。インスリンはこれらのホルモンとは「拮抗的」に働きます。ホメオスタシスですね。)
インスリンの分泌
グルコースが膵臓のβ細胞の細胞膜にあるGLUT(グルコース輸送体)から細胞内に取り込まれると、β細胞内でグルコース代謝が行われます。
その代謝によって生み出されたATPが細胞膜のチャネルに働きかけ、インスリンの分泌が行われます。
そうして血中に放出されたインスリンが骨格筋などの細胞膜にあるインスリン受容体と結合すると、細胞内にあるGLUTを細胞膜に移動させ、グルコースの取り込みが可能な入り口を増やすことになります。
入り口であるGLUTが増えることで、細胞内にグルコースが取り込まれやすくなるわけですね。
取り込まれたグルコースは、代謝されATP産生に役立ちます。
このようにして、血液中のグルコースが細胞に取り込まれることで血糖値の低下が起こります。
インスリンがグルコースを分解したり消したりしているわけではないのですね。
糖尿病の病態
糖尿病はインスリンの分泌不足や作用不足が背景にあります。
その結果、血糖値が高い状態になるわけですが、これは「細胞内にグルコースを取り込む」ことがうまくいっていない、と考えることができます。
血糖値が高い状態にあることで、血管壁にダメージを与えるという考え方を聞いたことがあります。
事実、合併症で起こる、網膜症や足部の壊疽などは、そういった毛細血管のトラブルと言えます。
しかし、細胞の視点でみてみた時には
「グルコースが取り込めない→エネルギー代謝が非効率になる」
という状況が生まれていることが考えられるわけです。
糖尿病×リハビリ
では、糖尿病がある場合でのリハビリテーションを考えてみましょう。
今回は、運動療法の場面を考えます。
レジスタンストレーニングではないにしても、運動課題を行ってもらう場面では、骨格筋には収縮のためのエネルギーが必要になります。
グリコーゲンが蓄えられているので、ちょっとした課題ではエネルギー不足には陥らないでしょう。
しかし、リハビリ時間が40分、60分(2単位、3単位)となってくると、血液中のグルコースを取り込んでエネルギー代謝しないと追いつかないはずです。
細胞内でのグルコース需要が高まることでGLUT4が細胞膜に移動するそうです。
これはインスリンの作用を用いずに、グルコースを細胞内に取り込めることを指します。
糖尿病患者へ運動の習慣化が指導されるのはそのためですね。
血糖値が高いから、と極端な糖質の摂取制限も長期的にみて得策ではありません。
なので、薬物療法として、インスリン分泌を促すものや、インスリンそのものの投与が、運動と並行して処方されるのでしょう。
ただし、それらが有効な場合は「細胞膜にトラブルがない場合」と考えます。
インスリン受容体自体に異変があれば、インスリン濃度が上がったとしても、グルコースの取り込みに貢献できません。
近年、糖尿病と「酸化ストレス」の関係も調査されてきています。
(引用:膵 β 細胞機能不全のメカニズム 1.インスリン分泌と糖尿病におけるその破綻)
酸化ストレスは細胞膜を攻撃する可能性があります。
基礎疾患がある場合は、その病態について整理した上での、プログラム構築も重要です。
(参考:【肥満】対策として筋力トレーニングや有酸素運動を提示する前に考えて欲しいこと)
過去に、ステロイドの服用量により薬剤由来の糖尿病になった変形性股関節症の患者さんに対して、体重管理と股関節機能に対して保存加療目的の依頼を受けたことがあります。
かなり苦労しました・・・
効果があったと感じたのは、徒手的な何かではなく、自主トレでもなく、「生活指導」でした。
食べ物の内容や量、運動習慣については本人も自覚がありましたし、股関節痛(手術の検討をされるほど)があるので運動量には注意が必要でした。
睡眠時間への理解が得られて、眠れるようになったことが一番効果的だったように思います。
終わりに
糖尿病患者、糖尿病予備軍は増加傾向です。
世界的にみても。
リハビリテーションの進行を妨害する要因になる場面も出てくるかもしれません。
「痩せましょうね」
はなんのアドバイスにもなっていません。
相手の体で起きていることを細かく推察していくことは、神がかった手技を施すよりも大事なことだと考えています。
血液データやホルモンの作用について、勉強していける記事をまとめました。
ぜひ、ご参照ください。
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「リハビリが上手く進まない時に確認したい血液データと栄養素」
徒手的なアプローチが必要ないとは思いません。
徒手による介入ができるのは大前提で、運動も指導できるからこそ、生活指導が有効になってきます。
徒手的なアプローチについて、何をしたらいいかわからない場合はこちらがオススメです。
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