◇大腿骨頸部骨折
病院や施設でリハビリを担当していたら、一度はこの「大腿骨頸部骨折」という診断名を見たことがあるのではないでしょうか?
直接の死因にはならなくても、「寝たきり」の理由になることが多く、適切な治療、リハビリテーションが求められます。
例えば、受傷から手術までの待機時間が、予後に影響を与えることなども報告されています。
参考:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
以前、整形外科医と話をしていたとき、
「昔は80歳くらいの人の手術でもドキドキしたけど、今は90歳でも普通になったね」
というくらい、医療現場でも認識が変わってきています。
◇生活習慣
私の個人的な経験ですが、大腿骨頸部骨折を起こす人は圧倒的に女性が多かったです。
そして、女性の中でも肥満の人が多い。
さらに、すでに認知症を併発しているか、骨折を機に認知症へ進んでいくケースをたくさん経験しました。
骨折、肥満、認知症、これらがどの順番で起こってくるのかはわかりませんが、印象としては、その組み合わせがセットになるほど、予後が悪いです。
例えば、肥満ではない人、認知症ではない人、介護者などの協力が得られる人は比較的予後が良好なケースが多いです。
こういうのは統計が取られているでしょうから、先ほどのガイドラインなどで調査してみてください。
予後の良、不良に肥満、認知症が絡んでくるとしたら、受傷前後の日常生活に注意すべき点があるかもしれません。
その部分に関しては決定的なものを調べることができていませんでした。
少し、気になったので、調べてみます。
◇筋、骨、脳
骨は「オステオカルシン」というホルモンを分泌します。
オステオカルシンは代謝を調整する働きがあり、インスリン感受性に関係します。
オステオカルシンの増加に伴いインスリンが低下するという相関が、肥満児の調査から報告されています。
これは骨格の状況がエネルギー代謝と関係があることを示しています。
(引用:Osteocalcin–insulin relationship in obese children: a role for the skeleton in energy metabolism)
上記より、肥満を導いた代謝異常の陰には骨格の異常が潜んでいそうだ、と考えられるわけです。
インスリン抵抗性を生んでいる体ではオステオカルシンの働きも少ないと考えます。
インスリンは言わずと知れた同化ホルモン。
肥満の原因となりうるホルモンです。
インスリン抵抗性とは、何らかの理由でインスリンの働きが得られにくい状態となり、体内にインスリンが大量に存在している可能性を指します。
肥満ーインスリン↑ーオステオカルシン↓ (=骨代謝異常)
そのオステオカルシンは、脳機能との関連も報告されています(マウスですけど・・・)
(引用:Modulation of cognition and anxiety-like behavior by bone remodeling)
もしも若い人の血液(オステオカルシン多)を高齢者に注射すると、改善がある!みたいな報告があるのなら、時々、献血した私の血液も報われるかもしれません・・・
骨の同化を促す対策が、認知機能や不安行動に効果的であろうことが示唆されていますが、一般の人の認識のように「カルシウム食べればいいんでしょ」というのは推奨できません。
カルシウムのサプリメント摂取は心疾患のリスクとの関係が報告されています。
骨を強化するにはレジスタンストレーニングが良い、という報告はこれまでもたくさんみてきました。
何は無くとも「荷重」することが、骨、筋、脳にとって良い効果が期待できます。
そう考えると、不活動は全くいいことがありません。
臥床傾向がみられていれば、どうにかしてそこから脱却していかないと、肥満、骨折、認知症のパターンに入っていく恐れがあります。。。
骨密度の低下とインスリン抵抗性は関係がありそうですね。
これは言い換えると、「肥満と認知症と骨折」がつながるとも言えます(無理やり?)
友人や身内でそういう方がいらっしゃったらぜひ、遊びに連れ出してください。
散歩とかでも構いません。
レストランのバイキングとかに連れ出したら逆効果ですよ・・・
◇骨は内分泌器官?
骨から分泌されるオステオカルシンは膵臓に作用し、インスリンの分泌を促します。
そのインスリンはグルコース代謝に関与するのはもちろんのこと、骨芽細胞にも働きかけ骨吸収を促進することが報告されています。
(引用:Insulin Signaling in Osteoblasts Integrates Bone Remodeling and Energy Metabolism)
オステオカルシンはテストステロンの分泌にも作用し、骨量の調整に寄与するというループが完成します。
わかりやすい図を引用します。
引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3850748/
骨は体を支持する器官として、移動や姿勢保持に重要な部位ですが、ホルモン分泌の「内分泌器官」、代謝調整する器官としても重要な存在であることが見えてきました。
◇大腿骨頸部骨折後のトレーニング
エネルギー代謝、骨吸収にも関係するオステオカルシンの産生は、レジスタンストレーニングが有効だそうです。
これは若者のデータなので、そのまま「高齢者のリハビリ」に当てはめられませんが、参考にはなります。
高強度でやっている時よりも、トレーニング日ではない休息日にオステオカルシンが上昇しています。
グラフも同じく引用します。
引用元にはトレーニング内容も載っています。
結構きついです。。。
さすが、若者を対象にした調査ですね。
高齢者のメニューに入れるのは難しいですが、ここから読み取れるポイントは
- 座っているよりも立って活動したほうがいい
- レジスタンストレーニングが有効
- 毎日やらなくても休息日にオステオカルシンが分泌される
といったところですね。
リハビリのプログラムを実行する際に「毎日同じメニュー」を繰り返していませんか?
運動学習を狙う意味では有効かもしれませんが、例えばスクワットとかレッグエクステンションとか、低負荷で毎日やっているとしたら、それはどのような効果を期待してのことでしょうか?
「意味ないよ」と言いたいのではなくて、目的に応じてメニューを考案しましょう、という話です。
◇まとめ
さて、だいぶ長いこと書いてきましたがそろそろまとめです。
・大腿骨頸部骨折患者によく見られる肥満、認知症はそれぞれが相互に関係しあった代謝異常が潜んでいることが考えられる。
・骨は支持組織の側面だけでなく内分泌器官としての一面もある。
・骨密度の低下と、エネルギー代謝異常は関係がある。
・リハビリのプログラム、ゴールを設定する時に代謝のバランスも考慮すると良い
肥満、認知症で大腿骨頸部骨折をしてしまった患者さんはエネルギー代謝に何かトラブルを抱えていると考えられます。
そういう人は、食事や睡眠といった生活習慣を探って対策を立てると効果的です。
片方を骨折すると、反対側の下肢も骨折・・・なんてパターンもよく経験しました。
家屋環境とか人的介助もそうなのですけど、食生活や日々の行動(習慣、パターン、癖)について目を向けて、介入していくことで防げることもたくさんあります。
腕の見せ所ですね!
仮に大腿骨頸部骨折を予防しようとしたら「生活の不活動状態」(全体的な不動)、「関節の柔軟性低下」(局所的な不動)に着目していくことが合理的でしょう。
【組織滑走法】は局所的な不動状態を解決する手段となります。
股関節周辺の問題を解決するために、知っておきたい知識と技術はこちら。
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